道端の予言者 - 7/9


side. O



人間の女の子を自分のペットとしている、理由と経緯。
頼んでもいないのに、翔くんが必死にそれらを説明してくれたけど、残念ながら俺の関心は既に別なところにあって、それは二つあった。
一つは、連絡が無い間も、密かにずっと気になっていたことだ。



「…で、翔くんは?」

「え?」

「俺にはよく分かんねぇけど…DJだっけ?まだ、ちゃんとやってるんだよね?」

「…!…」



こうやって話を聞く限り、翔くんが充実した日々を送っているのは、なんとなく分かる。でも、俺が知りたいのは、それを支えている根っこの部分。
俺も不安定な生活を送っている人間だから、何もかもが思う通りに進むとは思っていないけど、だからこそブレちゃいけないものはあるはずだ。
どんな風に生きていたってそれさえあれば、いつだって前を向いて歩けることを、俺は知っている。


すると、俺の質問の意味を察したのか、翔くんは一度軽く目を閉じた後すぐに開き、しっかりとした口調でこう返した。
その瞳に、嘘は見えない。



「…時々だけどね?理想通りとは言えないけど、出来る限りのことはやってるつもり。忘れたことはないっつーか…いつも意識にはある感じっていうの?だから…、俺もそこは智くんと一緒なのかな。相変わらず、だね」



真っ直ぐに見据え、自信に満ちた笑顔で紡ぐその言葉に、心から安心する。
初めて知り合った時から、一貫して自分はこの先も絵を描き続けるべきだ、って背中を押してくれたのは翔くんだけだった。
今、俺が迷いなく自分の道を歩けるのは、そんな風に信じてくれる人がいるからだ。
だから、同じように俺も、翔くんにはちゃんと前を向いていて欲しい。自分が選んだ道を、後悔なんてして欲しくない。


特に、翔くんみたいに真っ直ぐな目をしている人には。



「んふふ…そっか。良かった。それならいいんだ、俺は」

「うん。それに、実は今度さ……っ、 !…」

『…!』

「っ、…ごめん。ちょっと電話。すぐ戻るから、ハナと一緒に待っててもらっていい?ほんと、ごめん!」



そう言って、慌ててこの場から、翔くんがまたほんの少し離れる。
今日何度目なのかは分からないし、その電話の内容がどういったものなのかは、俺には知る余地も無い。
もっとはっきり言ってしまえば、翔くんが以前と変わりなくいてくれたことが分かった時点で、それ以外はもうどうだって良かった。


でも、それは今日会ったのが、翔くんだけだったら…の話だ。



『……』

「……」



離れた場所で電話を取り出し、誰かと会話を始める翔くんの背中を、ジっと見つめる女の子。
左右違う色をした瞳は、一瞬また寂しそうな色に染め、同時にどこか遠くへ行っているようにも見えた。
それは、さっき2人で喋っていた時のものと同じで、俺の目には、簡単には拭えそうもない黒く濃い影になって現れる。
そして、それを引き起こすきっかけはいつだって翔くんで、それ故に、俺も気にせずにはいられなかった。



「…また、行っちゃったね?」

『え…』

「君のご主人様」



俺が笑ってそう言うと、自分の無意識の行動に気付いたのか、誤魔化すように、再び膝を抱えて絵を見始める。
目が合えば、きちんと微笑み返してくれるし、ペットとしての生活のことを訊けば、困ったように…でも、楽しそうに話をしてくれるけど。



「大変じゃなーい?翔くんと一緒に暮らすの。変なところで細かいじゃん、翔くん」

『ふふっ、そんな風に思ったこと、とりあえず今は無いけど…』



それなのに、どうしてそこまでして自分を闇で覆う必要があるんだろう。
どうして、絶望を信じる必要があるんだろう。



――― ねえ。やっぱり、その瞳には似合わないよ。そんな暗い色は。






prev | next

<< | TOP
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -