運命の出会い - 5/9


side. S



まずい、と思った。箱の中身は俺の予想を遥かに越えていて、思わず心臓が止まりそうになった。それぐらいの事態だ。
でも、きっと心臓の動きを止めている場合じゃない。箱の中に、人が入っている。女の子が、入っている。



「っ、…ちょ、なんだよこれ…」



仕事の疲れで幻覚を見ているんじゃなければ、目の前にしているものはテレビでも遊具でもラジカセでもなく、絶対に人だ。
今日はランチも食べてないから、腹が減っているせいというのも考えられるけど、どっちにしろ重症だと思う。
それとも俺が知らないだけで、今の世の中はこういうことが当たり前になってきているのだろうか。だとしたら、俺は仕事のしすぎだ。もう少し余裕を持って、社会を知る時間を作らないといけない。



『っ、はぁ…』

「!」



苦しそうに呼吸をするのが聞こえ、現実が再び襲いかかってくる。死体じゃないことが分かって安心もするけど、箱の中の彼女は明らかに苦しんでいて、病気なのが一目瞭然だ。
今の状況は、確かに理解出来ない。でも、このままにしておけば本当に大事件になる可能性があるし、何よりせっかく命があるのに、俺が躊躇っている場合じゃない。死んでしまう。
警察にしろ、救急車を呼ぶにしろ、場所は移すべきだ。後で大騒ぎになったら困るかもしれない。


俺も、彼女も。



「いや…。ちょっと、待てよ…」



そこまで考えて、彼女へと伸ばした手を止める。

そうした後はどうすればいいんだ?連絡するのは当たり前だけど、何をどう説明すればいい?さっきも言ったとおり、俺が何もしていないなんて証拠は何一つ無い。
そもそも、こういう世の中が本当に当たり前になっていないのなら、箱の中に人が捨てられていたんです、なんて説明は通らない気がする。



「つーか、どっちかっていうと俺が疑われる立場だよな…。これ…」



さっきまで不法投棄に悩む被害者だったのに、5分後にはこの様だ。なんで加害者になりかけてんだよ、俺!
でも、無意識にも取り出していたケータイをパカパカ開け閉めしていても、何も変わりはしない。時間が経てば経つほど彼女の命は危うくなるだろうし、もう迷っている暇は無かった。



「きっと、犯罪者ってこんな気持ちなんだろうな…。マジで厄日にも程があるだろ、今日…」



頭を冷やして冷静になるためにも、覚悟を決めて彼女を箱から出して抱き上げる。シャワーを浴びて飲めると思っていたビールは、会社にいる時よりも、もっと遠ざかっていった。
首筋に触れる栗色の髪が、くすぐったくて仕方ない。







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