太陽と月 - 2/9
side. A
さっきからずっと、スタジオのど真ん中で大の字に寝転がり、その真上の天井を見つめ続けている。 音響アップの為に作られたスタジオは特殊な構造になっていて、確かに凄いとは思うけど、別に興味があるわけでも、そこにいつもと違う何かがあるわけでもない。 邪魔だと分かってはいても動くことはせず、ただ一点をジッと見つめるだけ。でも、心は全く違う場所にあった。
「杏奈…、マツジュン…」
ここ最近、何もかもがメチャクチャだ。 一緒に行ったクラブで杏奈が姿を消した時から、歯車が狂ってきたというか、“今まで通り”は通じなくなった。 結局杏奈は無事に見つかったけど、俺とマツジュンに何か隠し事をしているのは明らかで、それなのに説明は未だに無い。 ただ、“ショウちゃん”という、俺たちの知らないその人が原因なのは、説明されなくてもちゃんと分かっていた。
それに、そのせいで、マツジュンに宣戦布告されたことも。
「…っ、なんなんだよ、もう!ピースフルに行こうよ、みんな!!」
拳を思いっきり床に打ちつけて、怒鳴るようにそう叫ぶ。 急に大声を出した俺に、休憩中でお喋りをしていた他の生徒たちは驚き、スタジオ内は一瞬静まり返った。 あれから2日経ったけど、マツジュンも杏奈も、ここに来る様子は無い。
ここでの友達は、もちろん他にもいる。でも、俺がチームを組んでいるのはマツジュンと杏奈であって、そこに代わりはいらない。 たとえこんな状況だとしても、俺は2人と一緒の方がいいし、特にマツジュンとは、色んな意味で一緒に居て楽だったのだ。 関係はギクシャクしているけど、お互いの気持ちが分かっている分、いざとなったら何でもぶつけられる気がしていたから。
でも、マツジュンじゃない誰かが一番のライバルになるなんて、考えもしなかった。
「ショウちゃん…、か…」
聞き慣れない名前に、いったいどんなヤツなんだろう、と思う。 どんなにダンスの練習をしていても、その名前と、見たことのない杏奈の表情が浮かんできて、振りは全く頭に入らない。 そして、少し汗ばんだ額に腕を乗せ目を閉じれば、あの時の景色は鮮明に映し出され、マツジュンの言葉だけが何度も何度もリフレインされる。
“…悪いけど、もう遠慮しないから。相葉くんにも…ショウちゃんにも”
“本気で行くよ?俺”
「…っ、…」
マツジュンが杏奈のことを好きなのは、ちゃんと分かっていた。俺と同じだってことも、ちゃんと分かっていた。 杏奈を見る瞳が優しい。いつだって一番に考えてる。キツイこと言うのも、本当に大事で心配しているから。 だから、いつかこんな日が来るのは分かっていた。でも、それがこんなカタチでやって来るとは思ってなかったんだ、やっぱり。
「っ、もお〜…!誰なんだよ、ほんとに…!」
俺を、こんな気持ちにさせたヤツ。 マツジュンを、本気させたヤツ。 杏奈を、知らない女の子に変えたヤツ。
そして、俺たちの関係を、メチャクチャにしたヤツ。
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