運命の出会い - 3/9


side. S



「ああー…!マジ、疲れた…っ」



いつも通りに家路を辿る途中、立ち止まって思いっきり伸びをしてみた。そして、何も見えない真っ暗な空に一瞬目を向けた後、また歩き出す。
残業帰りの深夜25時は、当たり前だけど誰も歩いていない。でも、家に帰ったらシャワー浴びてビールだ!と心の中で叫ぶと、1人だというのに笑みが零れていた。
やっぱりどんなに疲れていたとしても、仕事の達成感はハンパじゃない。


国際的な大手一流会社に勤めて、早5年。今日は…と言っても日付は過ぎているけど、その5年間の中でもベスト3に入る大きなプロジェクトをやり遂げた時だった。
この2、3カ月はその為に全力で働いてきたようなものだったから、こうやって成功を喜ぶのは悪いことじゃない。これだけの充実感に溢れた疲れを感じられるのは、自分が頑張ってきた証拠だ。
ただ一つ残念だったのは、残っていた仕事を頼まれて、こんな日だというのに残業をするはめになったこと。お陰でチームの打ち上げには参加出来なかった。



「でも、ま…、いっか」



そう、これで良かった。たとえ充実感があったとしても、疲れは疲れであって、実際に体はボロボロ。
ラッキーなことに明日は土曜で会社は休みだし、家でビールを飲んでいた方がずっと気楽に違いない。今日は酔い潰れるぐらいに、思いっきり酒を味わえる、ってことだから。


そして、そんなことを考えてワクワクしていると、ゴールである自分のマンションが見えてくる。
場所は駅から歩いて10分ほどで、素晴らしい会社に勤めているお陰で、俺の歳からすればかなり良いマンション。周辺には自然も多く、都会の中心部だけど閑静だ。
目の前には公園もあり、昼間は人通りも多いけど、さすがにこの時間は誰も歩いていない……、



はず、だった。



「なんだ、あれ…」



思わず足を止めたのは、この平和な場所には似つかわしくない男が2人、何やら騒いでいたから。なぜか、この時間に、公園付近に設置されているゴミ捨て場で、だ。
しかも、明らかに妙に大きな箱をその場に置いていこうとしている。それが分かった瞬間、舌打ちと大きなため息を吐いた。せっかくの良い気分を邪魔されて、俺がイライラしないはずがない。



「おいおい…。その大きさは完全に粗大ゴミじゃねーか…。ちゃんと連絡して持っていってもらえよな。つーか、この時間に騒ぐなよ…」



でも、だからと言って、いきなりケンカ腰で声をかけるのは良くない。
そう心で唱えながら、覚悟を決めてその場へ足を進めて行った。



――― 平常心!平常心だ、俺!







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