知らない名前 - 4/9


side. M



俺と相葉くんがここまで本気になるのは、相手が杏奈だから。

同じ想いを抱いていて、それが嫌っていうほど伝わってくる。だから互いに遠慮するし、強く踏み込めない。
クラブで初めて出会い、ここに3人で通うことになってから、もうどれだけの時間が過ぎた?
杏奈との関係がどんどん曖昧になっていくにつれ、相葉くんとの関係もギクシャクしていく。



「なあ…」

「ん…?」

「…何でもない」



訊きたいことは、山ほどある。


今まで、杏奈と何があったのか。どれだけの夜を、一緒に過ごしてきたのか。
でも、それを知ったところで何が出来るわけでもない。自分だって同じことしてるじゃん!と自覚させられるだけだ。
そして、同時に杏奈を責めることも出来ない。
あいつがどうしようもなく孤独なのは側にいるだけで伝わるし、それを何とかしてやりたくて、俺たちはこんな風になっているのだ。



だから、これから先、もし訊くことがあるとすれば、これだけなんだろうな、と思う。



「マツジュン…?」

「…ごめん。本当に、何でもないから」



“俺たちは、友達?ライバル?仲間?”


何が正しくて、どう接すればいいのか。見て見ぬふりで、結局今日までこんな感じ。
派手に傷つくことは無いけど、ジワジワとくる苦味は決して良いものでもない。
ただでさえ杏奈との関係が歯痒くて仕方ないのに、これ以上苦しむのはごめんだった。



「あれ?相葉とマツジュン、もう来てたんだ?」



そんな時、別のスタジオでレッスンを受けてたらしい顔見知りの1人に声をかけられる。
俺も相葉くんも、いつの間に俯いていたのか、その声に同時に顔を上げた。相変わらずスタジオ内は、不愉快なほど騒がしい。



「あ、ああ…。うん、なんで?そりゃ来るでしょ。特に休む理由も無いし」

「や、お前ら2人とチーム組んでる女いるじゃん、可愛い子。今来たみたいだから、レッスンこれからなのかなー?と思って」

「「え?」」

「今、事務の先生となんか話してんだけど、久しぶりに来たから周りがうるせーの!特に女子なんて、やっかみとしか思えないよーなこと、わざと聴こえるように言っててさ〜。はは!本当にめんどくせーよなぁ、女子って!」

「ちょ…ちょっと待って?!俺らとチーム組んでるって……ま、マツジュン!?」



そう言って、相葉くんが勢いよく立ち上がる。突然の思いがけない情報に、一瞬何を言っているのか、上手く理解出来なかった。
でも、確かに良く耳を澄ませば、このスタジオの外からは騒々しいほどの女子の声が聴こえる。そして、それはあいつがいる時ならではの現象だった。



「…誰が、どこにいるって?」

「? 、お前らのチームの女が、事務室の前に」



――― 意味分かんねぇ…。






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