運命の出会い - 2/9


癇に障る男の声に、鼻に付く匂い。それに肌に触れる安物のシーツが気持ち悪くて、うっすら目を開けた。
さっきから、私の知らない名前が耳元でうるさく響いている気がする。



「うわ、…っ、マジかよ…!ちょっと、…なあ、――……ちゃん?」

『…っ、…?』



薄く開けた瞳からは、知らない男が焦ったように様子を伺う姿。その時、聴き慣れないその名前で呼ばれているのが自分だと、初めて気付いた。
どんな経緯があってそんな風に呼ばれているのかは覚えていないけど、どうせ、また私は適当なことを言ったんだろう。
一度閉じた瞳を再び開き、うつ伏せになっていた体を今度は仰向けに変える。そして、今の状況を知ろうと辺りを見回した。なぜだか息苦しくて、こんな動きですら必死にならないと上手く出来ない。



『…っ、はぁ…』

「な、なあ?」



無駄にふわふわするベッドに、センスが良いとは言えない壁紙。そのベッドの横には知らない男が立っていて、私を見下ろしている。
煙草と安っぽい香水が混じったような香りは、それだけで目眩がしそうだ。


きっと、どこかのホテルの一室。それも、やることも目的も明らかな、そんなタイプのホテル。
でもラッキーなことに、私もこの知らない男も、まだ服はちゃんと着ている。



「な、なあ…?大丈夫、だよね?なんか、こう…、トんでるわけじゃないんだろ?…まさか、とは思うけどさ…」

『“トんでる”…?私、が…?!』



私が何か危ないクスリでもやってるんじゃないかと言いたそうな顔を、瞳だけ動かしてキツく睨む。
確かに酷く息苦しいし、頭も痛ければ寒気もする。なのに体はどんどん熱くなっていくようで、大丈夫とは決して言い難い。
でも、そんなクスリに手を出すほど私は人間堕ちていない。たとえ、ここまで何があったのか、今は思い出せないような人間だったとしても。



『っ、はぁ、はぁ…!』

「! 、――…ちゃん?!」



そこまで考えて、必死に呼吸をする。でも、徐々に視界はぼやけていき、意識が少しずつ遠ざかっていくのが分かった。


どうして、こんなに体が熱いのか。どうして、こんなに苦しい思いをしているのか。どうして、こんなに孤独を、今感じているのか。
何も分からないけど、どっちにしろ帰る家も居場所もないことだけは分かっていた。それに、瞳が力なく閉じる頃には、私はきっと死んでいるんだということも。



『………』



――― でも、寂しくなんかない。どうせ、ずっと独りだったもん、私。







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