運命の出会い - 8/9


side. S



時計を確認すると、夜の3時を過ぎていた。それを知って、ずっと無視していた、体に蓄積された疲労が一気に踊り出す。
そして生まれるのは、ザ・睡魔。ザ・睡魔だ。眠くて仕方ない。でも、彼女が起きたら訊かなければならないことも山程ある。



「えーと、なんだ?箱に入ってた、つーか入れられていた経緯だろ。あと名前、年齢……、……年齢?」



二度繰り返したワードに、彼女を見つめてしまう。瞬間、嫌な想像が頭を過った。この子、いったい何歳なんだ?


俺よりも若く見えるのは確か。服装だったり、雰囲気だったりを見ての判断だけど、間違いないと思う。
そして、こんな時間にこんなことに巻き込まれているんだ。勝手に20代だと考えていた。でも、10代に見えなくもないルックスに良い予感はしない。



「まさかとは思うけど、家出少女とか、そんなんじゃねーよな…?」



もしそうだとしたら、本格的に俺の立場が危ない。ただでさえ説明出来ない有り得ないことが起きているのに、加えて家出少女なんて、厄介にも程がある。
いや。状況的に見たら、家を“出て行った”というより、“捨てられた”って感じなんだけど。



『ん……』

「………」



すやすやと眠る彼女は、時折何かが引っ掛かるように目をぎゅっと瞑る。
俺は医者じゃないけど、顔色も良くなってきたし、安定してきたんだろうと分かった。でも、それとは逆に、俺は不安定極まりない。


仮に彼女が本当に家出少女だとしても、俺のやるべきことは変わらないはずなのだ。起きたら事情を訊く。そして、出ていってもらう。それだけ。
なのに、冷や汗が出てくるような気がするのは、それで済むワケないと自分でも分かっているからで。だって、何度も言うけど説明しようがない。こんなの。



「…いや。やめろ、俺。んなワケねーだろ、っつーの。第一、そんなややこしくなる前に関わりを断てばいい話じゃねーか。うん」



そう言って、無理矢理に自分を納得させ、なんでもないことだと思い込むようにする。考えれば考えるほど、嫌な汗が出てくるような気がして、とにかく思考という名のスイッチをオフにした。
すると、今度こそ瞼が落ちてきて、もの凄いスピードで睡魔が俺を襲う。程なくして、彼女の規則的な呼吸と自分の呼吸が重なっていくのが分かった。



「やべ…。超、眠い…」



――― 予測出来ない明日、見えない運命。



今思い出すと、そんな言葉がぴったりだと思う。そして、簡単に済むと思っていた自分の浅はかさに苦笑してしまう。
なぜなら、次に目が覚める時にはそれまでの生活は完全に一変し、俺の運命はこの瞬間から、既に大きく動き出していたからだ。



偶然でも必然でもない、運命の出会いの始まり。

これは、まだ序章に過ぎない。





End.


→ あとがき





prev | next

<< | TOP
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -