2013/12/03
Maybe It's You


『あ……』

誰にも聴き取れやしない。それぐらい小さな声で、呟いた。呟いたなんて表現するのもおかしなぐらい、ただ気付いた瞬間に、声が漏れた。
場所は、某有名ホテルの地下駐車場。私はドラマのプロデューサーと話し込んでいるマネージャーを、出入り口で待っていた。そして、たくさんの車が並ぶその中で、約50メートル先に彼がいるのを見つけた。彼は、カノジョと一緒に居た。

――― 私は、いったい何を望んでいたんだろう?

たぶん、私は彼のことが好きだった。何度か一緒に仕事をして食事に行ったこともあるし、仕事を言い訳にはしていたけど、プライベートでも確かな付き合いがあった。それは、滅多に女性とは連絡先を交換しない彼にとって、とても珍しいことだった。お互い思わせぶりな態度も取って、目が合えば、何かしらのサインも送っていた。
少し遠くで彼の腕を引っ張っているカノジョは、正確に言えば“元”カノジョらしい。さっきまで出席していたパーティで、彼の友達がそう言っていた。たとえ元カノで興味はゼロに近くても、優しいあいつはどうにも無下に出来なくて、ああやって笑顔を向けちゃうんだよなぁ、とのことだった。
だから、彼とカノジョがいちゃいちゃしていようと、傷ついたり、落ち込んだりする必要は無い。私だって、彼の友達が言うように、彼がそういう人であることは知っているんだから。

『……』

でも、カノジョは文句無しにとても綺麗で、文句無しに彼とお似合いだった。過去だろうと現在進行形だろうと、密な時間を共有した2人の間に私は割って入ることは出来無いし、そんなことをしても勝てる見込みは無い。一目瞭然。完全なる敗北。そんなワードが次々と頭の中に浮かんでは消え、次第に何も無くなっていく。

好きだったはずなのに。まだ、好きなはずなのに。きっかけさえあれば、すぐに取り戻せるような想いなのに。
でもきっと、だから怖くて仕方ないんだよ。だって、傷つくのは目に見えているじゃない。
ってことは、つまり、たぶん。元々無かったことにしちゃうのが、最良の策なんじゃない?あっちだって、きっと本気なんかじゃない。気持ちも確かめ合ったわけじゃないんだしね……、

『!、……』
「…あ、ごめん。…さっきの会場、煙草禁止だったからさ。やだ?」
『いえ、別に…』
「良かった」

カチッ。

私の情けない白日夢を打ち破ったのは、隣で一緒にマネージャーを待っていた、西島さんが点けるライターの音だった。会場からここまで、ずっと2人で並んで待ち、彼とカノジョを見つけるまで笑って会話をしていたにも関わらず、ライターのカチッという音がするまで、私は西島さんの存在をすっかり忘れていたらしい。まるで、本当に夢から醒めたような感覚だ。もちろん、約50メートル先で目にしたものは、夢ではないけれど。

西島さんは、私が大丈夫ですと首を振ると、口の端を上げ、しっかりと煙草に火を点けた。そして、私はさっきまで彼らがいた駐車場を、ジッと見据える。2人の姿は、もうどこにも無かった。
隣から流れてくる煙草の煙だけが、今ここに存在している。

『西島さん…。煙草も吸うし、甘いものも好きだし、お酒も飲むし、不健康極まりないですね』
「っ、ははは!なんだよ、いきなり」
『だって』
「確かにそうだけど、どうしようもないんだよ。芝居の世界では煙草も酒も大事な小道具になるし、たしなんでて悪いことは無いし」
『そうやって正当化するけど、西島さん、役作りしないじゃないですか。本当に、ただの小道具にしちゃう』
「あー…」
『しない、ですよね?』
「うん、しないなぁ、役作り。どうだっていいもん、その役のバックグラウンドや価値観なんて」
『ふふふ!酷い役者さんだ』
「はは。向いてないよなぁ、ほんとこの仕事」

私の白日夢を破った犯人である煙草を茶化し、仕舞いには役者論まで攻撃の範囲内に入れてしまう。でも、西島さんは特に気にする様子もなく、2人分の笑い声は綺麗に重なった。

『煙草、甘いもの、お酒。どれならやめられます?』
「え〜。どれも無理だなぁ、きっと。映画が自分の人生から無くなるよりは、どれもマシだと思えるけど」
『西島さんって、そうやっていつも、普通のテンションで、普通じゃないこと言いますよね』
「なんか変なこと言った?」
『言った。でも、そこが好きです』

私が笑ってそう言うと、西島さんは何も言わず、笑顔だけを返す。
たぶん、全部バレているんだろうなぁ、と思った。私がここに来てから、何を見て、何を考えていたのか、全部。だから、タイミングよくライターの音がして、煙草に火が点いた。もしかしたら、パーティ会場に居た時から、私の意識が度々彼らに持っていかれていたことも、西島さんは知っていたのかも知れない。根拠はないけど、そう思う。西島さんは、そういう人だ。

「なあ、チョコレートとか持ってないの?今」
『持ってるけど、あげません。まずは煙草消して下さい』

大切に育てきた想いは、なかなか消えない。甘さも苦さも、まだまだ心の中に残っている。これから先も、消えては無くなり、また味わうことになる。
でも、たぶんその度に。この煙草の煙が、上手い具合に全部隠していく気がした。そして、心も身体も、気付けば全部乗っ取られているんだろうな、と思った。それ無しでは、生きていけないぐらいに、きっと。

「消したよ。ちょうだい?」

ああ。本当は煙草を吸うヤツなんて、大っ嫌いなのになぁ、私。



End.




……みたいな話を、唐突に書きたくなって書きました。嵐さんの夢サイトのはずが、ここ最近は西島さんばっかですね。申し訳ない。

なんていうか、サイトを再開してからずっと色んな嵐さんのお話を書いてはいるんですが、度々手が止まっています。何をどう言われても気にするつもりはないのだけど、定期的に私にコメントを連投して届けてくれる方がいて、その度に気力が削がれている状態です。嵐さんの話もほんとはもっとしたいし、いちいち狂信的な方たちに構ってもいられないんですが、後々面倒なことになる気がして、自由に話をしようと思えません。だったら、西島さんの話してるわ!ってね。なるでしょ?(^_^;)

サイトやってる者として、恥ずかしい言い訳ですね。でも、真面目な話、ここ数カ月何度も衝動的にサイトを休止しようとしている状態です。閉鎖ではなく、あくまで休止ですけど。
もしそうなった場合、再開や移転のお知らせはマガを購読してる方だけに限られますので、その点は宜しくお願いしますね。以前は、直接メールさせて頂くこともあったんですが、今はそこまでの余裕はありません…。ほんと申し訳ないです(苦笑)

だから、まあ。何が言いたいかっていうと、嵐さんのお話は、もうちょっと待っててやって下さいませ。西島さんの書いて、リハビリしてるんで!(笑)
サイトも衝動的に休止したりしないよう、頑張りますよ。休んでた時間は取り戻せないしね。



あ!で、書いたお話(笑)
設定はリアル。主人公ちゃんも芸能関係のお仕事。こんな風に西島さんとちょこちょこ仲良く、ほだされながら恋がしたいです。ええ、以前書いた通り、願望がだだ漏れですが何か?(笑)

西島さんの、喋ると意外とフランクな感じや、平気で「映画が人生で一番大事」と言える感じ、俳優の仕事が向いてないと思ってる感じ。そういうのが全部好きです。あと、西島さんの煙草も。








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