2013/09/05 続・リップクリームとニノ 「ねえ、一体お前は何がしたいの？」 約10分間、たくさんの種類を前にして品定めを続ける私に、彼は呆れたようにそう言った。隣に居る彼は、私と同じように小さくしゃがみ込み、怪訝な顔を向けている。 『何がって…何が？』 「いや、だって今週で2回目だよ？お前がリップクリーム買うの見るの。先週も1個買うの見てるし」 『それは…』 「まさか、この数日間で使い切ったわけじゃないでしょ？」 そう。確かに彼が言う通り、私がこうやってリップクリームの種類に悩み、どれがいいかと何度も手に取るのは、この1カ月で、たぶん3回はあった。そしてその同じようなシーンを、隣にいる彼は、たぶん全て見ていた。 デートの途中や買い物に外へ出る度に、違うドラッグストアを見つけては商品をチェックし、挙句“なぜか”購入に至るのだから、彼の反応は至極真っ当と言える。でも、彼には不思議に見えるその行動も、私にはちゃんとした理由があった。 『だって…なんか最近、唇が異様に乾燥してるっていうか、なんか痛さすらあるっていうか…』 「そうなの？」 『うん。今までこんなこと、しかも夏になんて絶対に無かったのに…』 「ふーん」 ため息を吐きながら、自分の唇にそっと触れる。突然起きたこの異常に、我ながらちょっと参っていた。 こんなことで、と思われるかも知れないけど、女の子は基本的にこんなもんなはずだと信じてる。肌が荒れたり、髪が傷むだけで、どれだけテンションが下がることか！ 世の男子たちは、ちょっと女の子をナメすぎだ。どれだけ、日々努力して自分の前に女の子がいるか、分かっていないにも程がある。 「でも、リップクリームをそんな買う必要は無いじゃん。2個セットで買ったお揃いのヤツで、十分じゃないの？」 『だって、それ使っててもこんな風になったんだよ？もっとちゃんと効果があるやつにしないと、治らないじゃん』 「でも、今また見てるってことは、この前買ったやつも効果ないってことだろ？」 『だから、新しいの探してるんだってば！もう！いいから、ちょっと黙ってて！』 数年前からお揃いで使ってるリップクリーム。安いけど老舗ブランドで、Simple is the Bestという言葉がぴったりのリップクリーム。 でも、それじゃあもう追いつかなくなって、他に有名な海外ブランドの物や、同じく老舗で定評のあるブランド、はたまたスッピンの時用にという気持ちで、色つきのリップクリームまで買ってしまっていた。それでも、分かりやすい効き目を感じられないのだから、もう泣きたくなる。 『やっぱりちょっと高くても、こういうやつの方がいいのかなぁ…』 「うーん…、そうねぇ…」 よく、オシャレ雑誌でモデルさんが使っていると見るリップクリームを手に、真剣にパッケージを読み解く。隣では同じ物を手に取り、つまんなさそうに彼が相槌を打つ。 でも、その5秒後。 彼は私の頬を軽く引っ張っるという意地悪なことをしでかしたと思ったら、それ以上の悪行を働いてきた。一瞬、何が起きたのか分からなくなるぐらいだった。 『っ、痛い！何なのもう、ちょっとニノ、離してって……、！！…』 気付けば、彼の顔が目の前にある。彼の唇が、私の唇に触れている。 1ミリの隙間も無く。 まさか、こんな、ガヤガヤとしたドラッグストアの店の中で。 “え？これって、何のドッキリ？何のサプライズ？” 頭の中が、そんなクエスチョンマークで溢れ返り、目を閉じることも出来なかった一瞬のキスに、思わず倒れそうになった。 そして、にこりともせず、彼はやっぱり理解出来ないとばかりに、私にこう言う。 「なんだよ、どこが荒れてんの。堂々と嘘吐くんじゃないよ、ったく」 『嘘じゃ…無いもん…』 「嘘だろ。今、ちゃんと試したじゃん」 世界中に、数え切れないほど有能なリップ―クリームはあるけれど。 たった一つの、大好きな人がくれるキス以上の効果を持つリップクリームは、たぶん存在しない。 たぶん？いや、絶対に。 続・リップクリームとニノ （「ほら、だからもう帰るよ。何回付き合わすのよ、こんなことに」） End. 何回、このリップクリームネタでくだらないお話を書くつもりなのか！ （※恐らく3回目） でも、実際にあったんだよー。8月、いくら何を使っても乾燥してる感が治まらなくて、何回か種類違うリップクリームを買ったんだよー。(T_T) 今はもう治ったけど、乾燥してるよーな、痛いよーな。よく分かんない状態は初めてで、ちょっとパニクりました。結果、4個ぐらいリップクリームを持っている、今。← 個人的には、やっぱりニノミーヤには、お安い2個パックのメンソレータムを使っていて欲しいです。公共の場でイチャつくということを平然とやりながらも、「いい加減にしなさいよ」という苛立ちの方が大きい感じが好きでした。 ま、妄想だけどさ！（笑）
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