弾けた彗星には感無量がお似合いね

ななしが久しぶりに天体観測をしよう、と言ったのは、春も終わりそうな時期の話だった。


天体観測に行くならせっかくだし月子や哉太や羊を誘おうか、と言ったら、


「錫也と私で、二人で行こうよ、ね?」


と溢れんばかりの笑顔で言うものだから(そして、その表情が非常に可愛かったから)、俺はじゃあ今日何か作っていくよと言ったら彼女はうれしそうに笑った。

…今改めて思うけど、俺はななしの笑顔には弱いんだと思う。



「わぁ錫也っ、星!すっごい綺麗だね!」

「ああ、そうだな」


そして、俺は今、屋上庭園でななしと軽い夕食を食べながら星を見ている。

夜なのに、珍しく風が暖かい。


「わあ……」


目の前のななしは相変わらず綺麗に輝く星を見上げては目をきらきらとさせている。

今日、ななしとここに来れてよかったと改めて思った。



「…ところで、どうして俺と二人で天体観測に行こうって思ったの?」

「…………」

「何の理由もなく二人で、なんてななしは言わないと思うから」

「……錫也には何でもお見通し、だね」

「おかん、ですから」


あ、自分でおかんって認めた、とななしはまた笑う。いつもの屈託のない笑顔だった。
……どうやら悩み事ではないみたいだ。



「………あのね」

「?」

「錫也にはいつもお世話になっているから、お礼を言いたいなって」

「……ななし」

「錫也、いつもありがとうね」


笑顔のななしの後ろで、一つの星が煌めいてから流れ落ちた。

あ、流れ星、と呟いたらななしがいきなり後ろを向いてどこ!?と叫びながら流れ星を探し始めた。



俺に感謝をしてくれた、ななしがこれほど愛おしいと思ったことはなかった。

華奢な背中に抱きつきたい衝動を抑えて、俺は微笑む。

流れ星がまた一筋、流れては消える。



毎日、当たり前のように見上げている星。

けど、そんな星でも。




「……ななし」

「?」

「また一緒に見に行こうな」

「…………うん」



お前が一緒だと、一瞬の輝きの価値も変わる気がするんだ。





お題*cuscus





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