指先から恋が始まる
私自身、おっちょこちょい、とかドジ、とかよく言われる人間ではあるけれど。
こういう時、自分のそういう所が、心底嫌になる。
「最悪だ………」
廊下のど真ん中で唖然と立ち尽くす私を男子生徒たちが何事もなかったかのように通り過ぎていく。
そんな私の周りには、大量のプリント、プリント、プリント。
うわあ、やっちゃった……。
これでも一応クラス委員の私は、職員室で会った担任の直獅先生に後で配るためのプリントを持って行ってくれないか?と頼まれて、大量に重ねられたプリントを持って教室まで持って行こうとしたところまではいいものの。
何もないはずの廊下で、うっかり転ぶとか…
自分の醜態を思い出しながら、恥ずかしくなって頭をぶんぶん振った。
あああもう、穴があったら入りたい……
目の前に散らばった大量のプリントを見て、すかさず溜め息をつく。
仕方ない…一人で拾うか…
しゃがんでから私はプリントを一つ一つ集める。
プリント多いな、ひたすら拾うって私…端から見たら情けない……というか、なんで誰も助けてくれないんだろう……
考えれば考えるほど惨めになって、ひたすら拾うことに専念しようと無心でプリントを拾う。
最後の一枚に触れようと思った瞬間、誰か他の人の手が視界に入ってき、て…?
「……………ぇ、」
「あ、大丈夫?」
一瞬、思考が停止した。
上を向いたら、水色の髪の男子生徒がしゃがみながらこちらを心配そうにこちらを見てきていた。
再び手元を見たら、お互いの手が触れ合いそうな距離に、あって。
すかさず手を引いたら、指先に小さな痛みが走った。
「っ、」
「わっ、ちょっと!」
かすかに顔をゆがめただけなのに、男子生徒はそれに気づいたらしくてすかさず私の右手を掴んだ。
衝撃で頭が回らない私をよそに、男子生徒は切なそうに目元を細めた。
「指を紙で切っちゃったみたいだね…」
「ぇ、ぁ、」
「保健室に行こうか……いや、まずプリントを教室に運ばなくちゃ……」
「あの、手………」
次第に冷静になり始めてたから、とりあえずは男子生徒に手を離すように促す。
男子生徒(ネクタイを見たらどうやら先輩のようだ)は私に言われて初めて状況を掴んだようだ。
ごめんね、と慌てて手を離してくれた。
私は握られた手を今度は反対の手で握りしめる。
かすかに熱を帯びた指先は、一向に冷める気配もない。
私は先輩に向かい合った。
意外に身長が高くて、優しそうな先輩だなあ…
早まる鼓動を静めるために、取り繕うかのように満面の笑みを浮かべだ。
「ちょっと切っちゃっただけなので、大丈夫です。プリント、ありがとうございました!」
「!え、あ、うん……」
それでは失礼致します、と集めたプリントの束を抱えながらお辞儀をして、足早にその場を去った。うわあああ、静まれ鼓動……っ!
動揺しすぎて、その時の私は気付かなかった。
その先輩が、その時わずかに頬を染めながらこちらを見つめていたことに。
(20111002)
素敵企画「夢ものがたり」へ提出!ありがとうございました!
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