知ってる、わかってるんだ

!悲恋注意!





最初から、私はわかっていたのかもしれない。
あの人への思いも、あの人の思いも。




*



「ななし?何やってるんだ、早くしないと先生が来るぞ」

「はいはい、今行くってば」


昼休みの始まってすぐの時間帯。
私はクラスメートの錫也と弁当を持って階段を上っていた。
そのままその先の扉を開ける。

少し曇っている空の下の屋上庭園。
多少天気は気になるけど、弁当を大人数で食べるにはちょうどいい日だ。



「さて、場所も確保したし、後は二人を待つだけか」

「そだね、あーおなかすいたー」


大あくびをしたら錫也に女の子なんだから口を手で隠すなりしなさい、と怒られたので軽く肩をすくめた。本当に言うことがお母さんそっくりだなあ。


「お前っていつも肩をすくめたり軽く返事をしたりするけど、そのくせ全く直さないんだな」

「あ、ばれたか」


そう言いつつ軽く舌を出しながら笑ったけど錫也は溜息をついてしまう。
本当は構って欲しいだけだなんて絶対に言わない。
……言ったら多分、恥ずかしくてもうどうすることもできなくなってしまうから。

すると、さっき私達が通った扉ががちゃりと開いた。


「おー待たせたなー」

「ごめんね、二人とも待った?」


二人の(というよりは後者の方の)声を聞いたときに、錫也が嬉しそうな顔をしたのを私は見逃さなかった。
前者の哉太と、…後者の月子はこちらに来て座ると、錫也が持っていたお弁当を開く。

相変わらずの綺麗なお弁当に、私たち三人は感嘆の溜息を漏らした。


「わあ、おいしそうー!」

「さあさあ、たーんと召し上がれ」

「いただきまーす!」


月子ちゃんは、嬉しそうにいただきます、と言うと卵焼きをぱくりと食べてから頬に手を当てておいしい、と呟く。

小さな仕草でさえ、月子ちゃんはとても女の子らしい。
……がさつな自分とは、まるで大違い。



月子を見て、哉太も私も食べようと箸を手に持つ。
哉太は唐揚げにがっつくと、うめー!と叫んだ。
私も見習って唐揚げを一口。確かにおいしい。


「はは、喜んでもらえて嬉しいよ」

「うん、本当においしいよ!」

「………、」




嬉しそうに、そして愛しそうに見つめ合う錫也と月子ちゃんをみて、私は下を向きながらまたもう一つ唐揚げを摘んで食べた。
…けど、なんでか何も味を感じることはできなかった。

二人を見つめて、ただただ作り笑顔をして自分の感情に嘘をつく毎日。
ちり、と痛む胸を知らないふりして、わたしは錫也の嬉しそうな微笑を見つめる。

本当は最初から、私はわかっていたのかもしれない。
あの人への思いも、あの人の思いも。




(知ってる、わかってるんだ)
(でも、止められない思いなんだ)


どんよりとした空は、まるで私の心を映し出したようだった




(20111002)





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