神は見損なった

ずっとずっと、遥か彼方の昔の話をしよう。

私が路頭に迷ってしまったときに、救いの手を述べた彼の話を。



*





「私に、何か用かしら」


とあるビルの一室、それは今や私の主な活動場所とも言える場所だ。
表向きでは、私は占い師として名を馳せている。
占いは百発百中!とよく言われたものだったが(お世辞もいいところだ)、そのお陰が芸能人やら歌手やら、挙げ句の果てに政治家まで、お客様として来て下さっては何時の間にか知り合いとなった。

その人たちから話――情報を聞き出し、その情報を必要とする人たちに売り出す。
それが裏社会での私―――情報屋のLupus、だ。



そんな私の現在目の前に立つのは一人の男。
灰色の髪。彼の翡翠の瞳が、私を真っ直ぐ射抜く。

なかなかの色男だ、と思ってしまった。



「………お前がLupusか」

「まずは自分から名乗ったら?初対面にその言葉って、結構無礼よ?」

「…そう、だな。俺の名前はAriesだ」

「コードネーム……あなたの目的は占いじゃなくて情報なの?」

「そうではあるが、そうじゃない」


なぞなそじみたその言葉に眉をひそめる。
この男、何が目的なの…?



「まあ、そう警戒するなって」

「あんなことを言われれば誰だって警戒するわよ」

「確かにな。じゃあ、そうだな……お前に聞きたいことがある」


ゆっくりと近づいてきたAriesはにやりと笑う。
むかつく笑顔だ、


「Tears of the polestar」

「―――っ!?」

「お前にも馴染み深いものだろ?」


目の前のこいつをナイフで刺そうか、と思った。実際、抜いて構えてはいたけど。
まさか、私がそれを追っていたことを知る人物がいるとは。



「…………むかしの、話よ」

「でも、今でも憎いだろ?あれのことが」



私は自分の右目に手を添えた。
憎いに、決まってるじゃない。



――――あれのせいで、



「確かに、私はあれが憎い、…………けど、それにあなたと何か関係があるの?」

「俺も、あれが憎い」

「……………」

「お前と同じように、俺も」

「…大切なものを失った、ということ?」



そうだ、とAriesは頷く。

嗚呼。世界は、なんと残酷なんだろうか、



「皮肉な話よね、こうした犠牲者がいるというのに、人はまだあの宝石を追い求める」


Tears of the polestarは、手に入れようとする人々の大切なものを無慈悲に奪い取る。

だが、占いのお客様でさえ、私にあれの居場所の情報を大金叩いてまで手に入れようとしてきた者もいた。

等価交換の方程式で成り立っている悪魔の宝石に、己の欲を捧げる人々はひどく滑稽に見えた。



私は、小さく笑いながらナイフをくるくる回した。



「だから、私にどうして欲しいの」

「………俺に、力を貸してほしい」

「……………」




じっとAriesを見つめる。

真っ直ぐな目だ。
……物事をひねくれた目で見る私とは、大違いだ。


もう一度右目を撫でる。
……Tears of the polestarのせいで………右目の視力を、完全に失った私を。



……彼は、それでも必要としてくれている。



「…………いいわよ」

「本当か!?」

「私の力でよければ。情報屋として、そして占い師として、伝手は沢山あるからそれなりには役にたつはずよ」

「充分だ」



私は、Ariesと笑った。
Tears of the polestar……私はあなたを必ず見つけてみせるわ。

そして…………




――――さあ、復讐の幕が開いた、






タイトル/馬鹿の生まれ変わり





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