戦の女神と変光星
「………着いた」
私は廃墟と化してしまったビルの前で無線を手に取った。
今回、言い渡された任務はこの廃墟ビルの中にいるであろうグループを調べてくる、という単独任務だ。
だからと言って、単独で戦えという指示は出ていないから、要は潜入して、それで敵に見つからなければ比較的楽な任務だ、ということだ。
無線のスイッチを入れて、小声で話す。
「こちらMira、只今より潜入を始めます」
『了解、廃墟とはいえセキュリティーは固いので気をつけろよ?』
無線の相手である、待機場所でサポートを務めてるCancerにわかってる、と短く答えてから無線を切る。
この廃墟の中にある書類を手に入れることが出来れば、"あれ"を見つけるヒントが見つかるかもしれない。
「待ってなさい、"Tears of the Polerstar"」
私が、必ずあなたを探し当てて見せるわ。
私は廃墟へと駆け出した。
…その後ろで女性が静かに私を見ていることに気付かずに。
*
Cancerにはセキュリティーが固いから気をつけろ、と言われたわりには案外あっさり入れたので拍子抜けしてしまった。
周りには人の気配すらない。
ふう、と柄にもなくため息を着いた時だった。
「止まりなさい」
ソプラノの、聞き覚えのある女の人の声。
横からの突然の殺気にぴたりと動きを止める。
カチャという音がして、銃を向けられてることがわかった。
……いつの間に。
誰もいないと、判断したはずなのに、この人は間近の距離にいる。…つまりは気配を消していた、ということ。
ちらりと横を見る。
黒髪の艶やかなかなりの美人なその人を見て私はやっばり、と呟いた。
「………Athene」
「一歩でも動きなさい、この引き金を引いて一発であなたは死ぬわよ」
たらりと、背中から冷や汗なのか、何かが伝う感覚がする。
冷や汗をかくほど、相当の殺気量だ。
流石だな、と思う。
そんな悠長なことを考えてる場合じゃないんだけど。
「強さが、桁違いね……あんなに気配を消せていた人は初めてよ」
素直に自分の感想を言ったら、Atheneはありがとう、と言った。そのままAtheneは自嘲した笑みを浮かべた。
「…なんで、私たちはこうも同じ任務が被ってしまうのかしらね」
「運命の糸じゃない?」
「出来れば切りたい糸ね」
そう言いながら別段嫌そうではないAtheneにそうね、と同意すると、じりじりじりと五月蝿いサイレンが鳴り響く。
まずい、見つかったみたいだ。
だけど、Atheneは余裕なようでぴくりとも動く様子はなかった。
「Mira、一つ提案があるんだけど」
「……何かしら」
ばたばたと大人数の足音が聞こえる中、Atheneは私に向けていた銃を下ろした。
「ここは、協力してみない?」
「………と、いうと?」
「相手は大人数だから、一人では対処できないし、多分警備も更に固くなってるから書類は多分手に入れられない」
「だから、二人で逃げよう、と?」
「そう。物わかりが良くて助かるわ」
Atheneはごそごそと何かを取り出すと、それを私に見せてきた。
缶の形をした手榴弾のようなそれ。
「………煙幕を張るつもり?」
「そうよ、いざと言うときのために用意しているの」
「……用意周到ね」
そう言うとAtheneはまあね、と言いながら構える。
そろそろ敵が来るようだ。
「じゃあ、私がこれを落としたときにお互いの場所に帰りましょう」
「……わかったわ」
敵がぞろぞろ入ってきた瞬間に、辺りに煙が舞う。
走り出す前に、私はぽつりと呟いた。
「もしも、私たちが敵でなければ、私はあなたと仲良くなれたかもしれないわ」
―――Atheneが、静かに微笑んだ、気がした。
(20110708)
Atheneちゃん最高にかわいいいい!!←
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