メロウをお届けに参りました
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「ごめんなさい、あなたとはお付き合いできません」
何度目になるんだろうか、と心の中でため息をついた。
目の前にいるのは同じ星月学園の男子生徒。
今、目の前にいるのは青いネクタイの先輩だけど、相手が同級生だったり後輩だったりすることもある。
しかも、会ったことのない人ばかり。どうして付き合えるんだろうか、と疑問に思う。……もちろん言わないけど。
先輩はごめんね、と切なそうに笑うと、私に背を向けて歩き出す。
その寂しげな背中を見て、私に告白するだなんてとんだ物好きだなあ、と思った。
相手の姿が見えなくなったのを見て、大きく息を吸う。
そして、また大きく吐き出した。
「はああー……」
「相変わらずでっかいため息だな」
いきなりの後ろからの声にびくりと、思わず背筋を伸ばしてしまった。
振り向かずに、声の主の名前を呼ぶ。
「………犬飼くん」
「よっ」
「なんで、ここに」
「それはこっちの台詞だぜ、人がせっかく気持ち良く昼寝をしていたのに、人が来るとは思わなかったぜー」
「……………」
一瞬、犬飼くんを見て思わず胸が高鳴ったけど。
正直、かなりタイミングが悪いと思った。
よりにもよって、犬飼くんがあの場に居合わせ、て……
………………。
「(まさか、会話内容聞こえてた……?)」
目の前で怪訝そうにこちらを見る犬飼くんに、まさかの可能性を考えたら背筋が凍った。
いや、もうこの場にいる地点でもう、わかっているに決まってる。
「またフったのかー?何度目だよ?」
「、」
ほら、やっぱり。
確実に犬飼くんに「男をふりまくる最低女」と思われたんだろうな、と思ったらなんだか悲しくなってきた。
犬飼くんに、嫌われたくない。
私が俯いているのを知らずに、犬飼くんは言葉を続ける。
「あの人、確かサッカー部の部長だろ?顔もいいし性格も良さそうで、なまえが好きそうなタイプなのにな」
「……っ私が!」
―――――好きなのは。
その先を言おうとして、口を噤んで俯いた。
人の告白はいとも簡単に断れたのに、自分が告白できないなんて、……情けなさすぎる。
心の中で自嘲の笑みを浮かべる。
「…………私が?」
「っえ!」
「私が、何だよ」
すると、意外にも犬飼くんは真剣な顔でこちらを見ていた。
……どうして、そんなことを、聞くの?
恥ずかしくなって、顔がだんだん赤くなっていくのに気づく。
今なら、犬飼くんにはっきり言えるだろうか。
私の、高鳴る鼓動の理由を、
どんな表情でもときめいてしまう理由を、
覚悟を決めて、息を思いっきり吸う。
言うんだ、言うんだ、
「…………私、犬飼くんが」
「ばーか」
「、え」
「……こういうのは、男から言わねえと格好悪いじゃねーか」
思わず顔を上げると、犬飼くんが顔を逸らしていた。
頬がかすかに赤らんでいる。
――――犬飼くんと思いが通じるまで、あと15秒。
メロウをお届けに参りました/さくら様へ!
(20110617)
タイトル*空想アリア
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