君の背中と夕焼け空
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弓道部が終わった帰り道。
月子ちゃんたちと別れてから、道場近くに止めていた自転車の鍵を開けて、ひいていたら、見覚えのある黒髪を見かけたから声をかける。
「梓くん!」
「!なまえ先輩!」
梓くんはこちらを振り向くとお疲れ様です、と言いながら駆け寄ってきた。
額にうっすら汗をかいていたから、少しだけ残って自主練してたのかな、偉いなあ、と思った。
後輩の頑張りぶりに微笑ましくなっていたその時、梓くんが私をじっと見つめながらぼそりと呟いた。
「………なまえ先輩、顔にやついてますよ」
「え!?」
「嘘です」
「………………」
思わず顔を触ってしまった私が恥ずかしい…!
恨めしく梓くんを睨んだら、目をそらされた。ちくしょう。
梓くんは話をそらしたいらしく、私のひいている自転車を覗き込んだ。
「そういえば先輩、自転車なんて珍しいですね」
「朝、学校に遅れそうになったからねー、今日急いで自転車をマッハで漕いできたんだ」
「あはは、相変わらずおっちょこちょいですね?」
「だまらっしゃい。……そだそだ、梓くん後ろ乗ってく?」
「…………………え、僕がですか?後ろに?」
「なによその間は!」
私の後ろはそんなに嫌か!と怒ったら、梓くんはいや、と困惑した表情をしていた。
そうしてしばらく考え込むような素振りを見せると、いつもの勝ち気な笑みを浮かべる。
「じゃあ、僕が前乗って、先輩が後ろ乗るのならいいですよ」
「…………は?」
いや、なぜそうなった!
そうしたら梓くんが「男が後ろに座れるわけないじゃないですか」と言いながら既にちゃっかり自転車に乗っていた。
す、素早い…!
梓くんはにっこり笑いながら、後ろの方にぽんぽんと叩いていた。
「さ、先輩?後ろ乗ってください」
「………仕方ないなあ」
もうどうしようもなかったので、梓くんのお言葉に甘えて後ろに座る。
目の前にいる梓くんの背中が意外に広くて、やっぱり男の子だなあ、と呟いた。
すると、梓くんがかなり心外そうな顔をしながら振り向いた。
「そうですよ、ただの可愛い後輩なんかじゃありません」
「はいはい、ごめんね」
ふふ、と笑ったら、梓くんが居心地悪そうにじゃあ行きますよ、と言いながら自転車が動いた。
暑い夏の空が、綺麗な茜色に染まっていて、生ぬるい風が私たちを通り抜ける。
不覚にも少しだけ、このまま寮に着かなければいいのに、と思ってしまった。
君の背中と夕焼け空/流れ星様へ!
(20110625)
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