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  むかしむかしのお話



いつの、はなしだろうか。
小さい僕が、膝を丸めて蹲っている。
ひっくひっくと泣きじゃくる声。僕はあの頃、いじめられていた時期があった。

周りの男の子達は皆やんちゃで、強くて、たくましい。
喧嘩なんて日常茶飯事、といったところか。…スーくんも確かその一人だったっけ。


だけど、僕はそれに対して、平和主義というか、喧嘩などとは無縁だった。
だからか、他の男子からは格好の虐めの対象となった。
ひよわだの、女の子みたいな顔だの、その他もろもろ。
たくさん言われて、たくさん傷ついて。

僕は、強い人間じゃなかったから、何かあればすぐに泣いていた。




「ひっく、ひっ…」

「イツキ!」

びくりと小さい僕が肩を震わせた。
いきなりの大声にびっくりしたのか、ここに人がいたことに驚いたのか。


その時、もう一人、同い年くらいの男の子が現れた。
黒い髪に、燃えるような赤い瞳。
顔のところどころに傷があって、膝には絆創膏を貼られていたりしている。

この声、この外見、もしかしなくても。



「スーくん…?」

小さい僕が声を震わせながら小さいスーくんを見上げる。
燃えるような赤い瞳に移る僕は、とても悲しそうだった。


「おい、大丈夫か!」

小さいスーくんがしゃがみこんで小さい僕の頭を乱暴に撫でる。
暖かい、手だった。



「スーくん、なんで、ここに、」

「あ?そりゃ、お前を探していたに決まってるだろ」

「…それに、その傷、」

「お前を女顔っていってた奴をぶちのめしてきた」

ぶちのめす、という言葉を復唱する。
つまり、さっき僕をいじめていたあのガキ大将と喧嘩をしてきた、ということ?


「、っう……」

「お、おい泣くなよ!お前は誰よりもや…」

「……?」

「………」

「……や?」

「や、さしい……からよ」


スーくんはそういってそっぽを向く。

スーくんの再び頭を撫でる仕草に、涙がまたあふれそうになる。
ああ、この人は。

僕を、見捨てない。
僕を、大切な人だと想ってくれる。


涙が一筋、頬を流れた。
悲しみの涙じゃなくて、喜びの涙が。



*




「イツキ?起きろー」

「…………ん、スーくん…」

「講義終わったぞー」



目を開けたときに見えたのはさっきよりも大分大人びたスーくんだった。

ああ、さっきのは、小さい頃の自分たちの夢……



「珍しいな、お前が講義中寝てるだなんて。ノート貸すか?」

「………ふふっ」

「?なんだよ」

「いや、スーくんは優しいなって思って」

「は?何言ってんだ」


スーくんは怪訝そうな顔をすると、さも当然かのように言う。


「俺なんかよりお前の方がよっぽど優しいよ」





……ねえ、小さい僕。

スーくんはやっぱり、今もすごく優しいです。






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