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とある彼らのとある日常
「ん゙ー…」
殺人的に輝く太陽光をまぶたに感じ、だるい体をのそのそと動かし布団に潜る。
あー……今日の講義は10時からだっけか。確かイツキも一緒だったよな。…そういやあいつ、今日まだ起こしに来てねー……………、ん?いや、今何時だ?
目をつむったままダラダラと考え事をしていた脳に一つ、疑問が浮かんだ。すぐさま布団から腕だけを出して辺りをさまよわせ、手のひらに当たった硬い無機質な感触の物体を引き寄せる。ずっしりと重い頭を動かしそれを見れば、二つの針が指し示すのは11時ちょっとオーバー。
…やっべえぇぇぇぇぇぇぇ!!
――――――…
「あ、おはようスーくん」
あれからマッハで支度しマッハで走ってみたが、時すでに遅し、大学に着いた頃には見事講義は終了していた。肩で息をしながら後方の隅に目をやる。人気の少なくなったそこには、筆記用具を片付けながら俺に微笑みかける幼なじみの姿があった。だいぶ呼吸も楽になってきた俺は一直線にそいつの所へ向かった。
「てめー…、んで今日も起こさなかったんだよ」
「起こしには行ったんだよ?でもスーくん、すごく気持ち良さそうに眠ってたから。起こしちゃ悪いかなって思って」
「そこでそのまま起こせよ!てかスーくんって呼ぶんじゃねー!」
「えー?僕はスーくんにも『イっくん』って呼んでほしいんだけどなぁ」
「ふっふざけんな、それはガキん時の話だろ!」
「あれ、スーくん寝癖付いてるよ。ほらここ」
「聞いちゃいねーし…」
カバンを机に投げ出しながら隣に腰を下ろした俺の頭に手を置き、ひどく楽しげに笑いながら髪を弄ってくる。そんなイツキに何となく気恥ずかしさを感じ、グイッと勢いよく奴から顔を背けた。
「そうだ。はいスーくん」
「…は?」
「さっきの講義のノート、スーくんの分もとっておいたから」
手渡されたのは一冊の青いノート。広げて中を見れば、独特の丸みを帯びた、だけどきれいに整った文字が丁寧に並んでいる。
何もわざわざ書き写さなくても…コピーとかでも良いじゃねーか。最初はそう思ったが、俺のためにこれを書くイツキの姿を想像し、何でか自然と口元がほころびていくのを感じる。ふと隣を見れば相変わらずニッコニコな笑顔と目が合い、慌てて口を手で隠して視線を逸らす。心臓、うるせー。
「あー……や、その、…えっと…………ありがと、な」
「どういたしまして。今度はちゃんと間に合うように起きられると良いね」
「…イツキが起こしてくれんなら、頑張る。…ちょっとだけ」
「…うん、じゃあ僕も頑張る!」
……はぁ。こいつといるとマジですっげー疲れる。疲れる、けど…別に嫌な気はしない。
「ちょっとスザク!私たちのイツキくんとイチャイチャしないでって言ってるでしょ!」
うっわ…出たな取り巻きどもめ。どいつもこいつも同じような髪型、同じような服装、同じような化粧で個性の欠片もない女たちが俺に突っかかってくるのはいつものこと。今日は六人か…てか男の俺にまで嫉妬すんなよ、鬱陶しい。
「ブーブーブーブーうっせーぞ雌豚ども。お生憎様、イツキはお前らのもんじゃねーんだよ。わかったらさっさと失せやがれ!」
「めすぶ…っ!?今日という今日は許さないわよ…その減らず口と横暴な態度を改めなさい!!」
「はっ、やーなこった。俺は正直者なんだ、豚に豚って言って何が悪いんだっつーの」
「む、むかつくー!!」
「それよりイツキ、飯行くぞ。俺朝も食ってねーから腹減った」
ブーブーギャーギャー騒ぎ出す甲高い声にいらつきながら、乱暴にカバンを手に取り腰を上げる。俺らが言い争っていた間泣きそうな顔でオロオロしていたイツキも、俺がそう言って少し目を細めれば顔を明るくし、見えない尻尾を振りながらリュックを肩に掛けた。
「ごめんねみんな。バイバイ」そう言ってイツキが手を振れば途端に女どもは顔を赤らめ出す。数秒遅れで一気に沸き上がる歓声。毎度のことですっかり慣れたこのパターンに虫ずが走り、盛大に舌打ち。寝起きと空腹ってのもあってイライラメーターは最大値だ。
まぁでも…
「今日は何食べよっかー…あ、僕スパゲッティー食べたいな。ね、スーくんは何食べたい?」
隣でほんのり頬を染めてはしゃぐ、俺より少し背の高い幼なじみ。こいつを見てるだけで何となくムカつきも治まる気がするから、
「俺も、スパゲッティー食いたいなって思ってた」
こんな毎日もそんな悪くないんじゃねーかな、なんて。
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