青い空と一緒に
「名前さん?」
「…あ、颯斗」
涙を流し続けていた空がにっこり笑った土曜日。三日ぶりのお日様が嬉しくて中庭で寝っ転がっていたら、澄んだ空の青に淡い桃色が映り込んできた。ふわふわなそれが風になびく。すっと空に溶けていくようで、でもやっぱりいつまでも桃色のままで。きれいだなぁ。
「何をしているのですか?」
「えへへ、ひなたぼっこー」
よいしょ。体を起こして後ろを向く。逆さまから真っ直ぐになった颯斗にそう答えれば、すぐにふんわり微笑んで、しゃがんで髪を撫でてくれる。手の動きに合わせてぱらぱら落ちる細かい緑。頭に付いた草を払ってくれているんだと、優しい手つきに思わずまぶたが落ちそうになった。
「颯斗も一緒に寝ない?あったかくて気持ち良いよ」
あ…でも寝たら颯斗も汚れちゃう。いっつも清潔な制服に身を包む颯斗は今日もまた例外ではなく。駄目だったかな、断られるかな、この後生徒会だったりするのかな。そうぐるぐる回る頭に反して、隣から感じていたそよ風がふっとやんだ。ゆっくり横を見れば柔らかい微笑み。
「ふふ。お隣失礼します」
「青空、かぁ」
「…?」
「良い名前だよね、青空って。颯斗にぴったり」
「そう…ですか?」
「うん。穏やかで優しくて大きくて、みんなをそっと包み込んでくれる。一緒にいるとすっごく安心する」
「……そんなこと、初めて言われました」
「本当だよ?」
「僕が青空なら名前さんは太陽ですね。明るくて温かくて、そこにいるだけで周りの人間を幸せにする。もちろん僕も」
「…初めて言われました」
「ふふ」
「あははっ」
二人でふかふかの草原に身を預けて笑い合う。頬をなでる風がくすぐったい。寝ることでなくなった身長差は、物理的にも精神的にも、いつもよりずっとずっと颯斗を近くに感じさせてくれる。それがすごく嬉しいな。
…あ、そっか。
「ねぇ颯斗。太陽って青空がいないと駄目なんだね。青空が一緒にいてくれるから、だから太陽は安心して輝けるんだね」
改めて空を仰ぐと、どこまでも広がる青い空に抱かれるように、そこには小さな太陽が笑っていた。私は幸せだよ、そんな声が聞こえそうなほどきらきらと。
「でしたら僕は名前さんの隣にいます。太陽がいつも輝けるよう、ずっと隣で見守っています」
そう言ってきゅっと繋がれた颯斗の掌は大きくて優しくて。まるで青空そのものだと、胸の奥がほかほかしたもので満たされる。
私もずっと颯斗の隣にいるよ。青空が優しさを見失わないように、いつも空を照らしてあげる。颯斗が笑顔を忘れないように、いつでも私は笑うから。
握り返したこの手から想いが伝わると良いなぁなんて、青い蒼い空を見つめながら、小さく息を吸い込んだ。
「あ…あの雲」
「どれですか?」
「あれ、あのおっきなやつ」
「はい」
「美味しそうだね」
「…ふ」
「笑われた…!?」
「すみません、微笑ましくてつい」
「微笑ましい?」
「平和だな、と思いまして」
「平和かぁ…平和だねー」
「よろしければこの後一緒にお茶しませんか?美味しいクッキーがあるのですが」
「わーい!」
← →