「料理部!東月くんと私で一緒に作ろうよ!」
「……………」
「言い出しっぺだから私が部長で、東月くんは副部長!なんだか、最強の料理部になりそうじゃない?」
「…………………」
「……あれ?ダメだった?」
呆然とこちらを見た東月くんの顔の前で手をひらひらさせる。けど、全く返事がない。
返事がないまま、前屈みになったので、心配になってのぞき込んでみたら、
「………ぶっ」
「え」
「くっ、あははは……」
東月くんはいきなり笑い始めた。………え。
な、なんか変なこと、言ったっけ……?
06=部長と副部長
「な、なに?」
「はははっ……いや、おもしろくてつい」
東月くんは未だに私の目の前で口元に手を添えて笑っている。
いや、なんでかはわからないけど!
本当に、いきなりなんなんだ!
「東月く……」
「錫也」
「え?」
「錫也ってよんで?くん付けはなしで」
そう言う東月くんはそれはもう素晴らしい笑顔だったけど、ものすごく有無を言わせない圧力がある。変に緊張感を感じた気がした。
…あれ、東月くんってこんな人だった?と動揺しながらも私は口を開いた。
「す……」
「す?」
「錫也……」
恐る恐る名前を言ってみると、東月く、じゃなくて錫也……はにっこりと笑って「よくできました」と言われた。
うわわ、男子の名前を呼び捨てなんて龍之介以来だよ…
少しだけ恥ずかしくて顔を背けたら、錫也は今度は手をさしのべてきた。
意味がよく分からずに私は思わず首を傾げてしまった。
「?」
「これからもよろしく、部長さん」
「!……よろしくね、副部長さん!」
お互いの手を取って私たちは笑った。
「ところでさ、」
「何?」
「顧問は?」
「……………はっ、しまった!」
「それから、生徒会に部活申請をしなきゃだし、部員も集めなきゃいけないんじゃない?」
「…………」
「……もしかして、考えてなかった?」
………全く考えてなかったです錫也さん。
表情からそれを読み取れたのか錫也はまた溜め息をついた。
うう、考えなしですみませんでした…
「じゃあ、俺からも知り合いを誘ってみるよ」
「え?部員候補いるの?」
「うん、まあね」
錫也はそういうと携帯電話を出して(いつの間に…?)かぱりとそれを開ける。
というかスタイリッシュな携帯だなあ。イケメンは携帯も格好いいのか…?
素早く携帯の番号を押しつつ、錫也は口を開いた。
「眞緒もさ」
「う、うん(いきなり名前呼び捨てた!)」
「誰か他の生徒を勧誘してみたらどうだ?」
「あ、そうか」
「クラスメイトとか、仲がいい人とか」
どうかな?と今度はこちらを見て微笑んだ錫也に、私は誰を誘おう?と考えを巡らせながら「じゃあ探しに行ってくるよ」と言いながら食堂を出て行った。
後ろから鈴也がいってらっしゃいと言ったので、私は行ってきます、と手を振って食堂を出て行った。
……さて、誰を誘おう。
*
出て行った眞緒の後ろ姿を最後まで見送ってから、俺はいつの間にか閉じていた携帯電話を開く。
「最強の料理部、か……」
先ほど聞いた彼女の言葉を復唱する。
いきなり料理部を作ろう、と言われた時の衝撃は凄かったな…。
…何よりも、変化を嫌う自分。
それなのに、どうして料理部を創設することに賛同してしまったんだろう。
「……ま、いっか」
面倒くさそうにそう言いながらも、実はこれからがとても楽しみになっている自分は見ないふり。
電話をかけようと、俺は携帯電話を耳に押し当てた。
開いた携帯のディスプレイに書いてある電話の発信先は、大切な幼馴染の名前。
(……あ、哉太?)
(おー錫也、どうした?)
(今すぐ食堂に来なさい、以上)
(は?どういうことだ錫……切りやがったあいつ……)(20110501)
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