「えーっと、0633……あった!」
合格発表当日。
たくさんの番号の中で自分の番号を見つけ出した後、隣で一緒に合格発表を見に来ていた龍之介も「あった」と呟いた。
お互いの顔を見合わせて笑った。本当に合格したんだ…!
あまりの喜びに龍之介に飛びついたら、龍之介は顔を赤らめておい離れろ!と叫ぶ。
照れ屋だなあ、でもそこが可愛いところだよ龍之介!
03=新入生代表な入学式
合格してから全寮制だから、と家に帰って部屋の中の荷造りを始めようとしたら、携帯の着信メロディーが流れる。
ふと、そのディスプレイを見ると、そこには『不知火一樹』と書かれていた。
にやける顔を抑えきれないまま、私は電話に出た。
「もしもし?」
『おう、眞緒!合格おめでとうな!一緒の高校に通えて嬉しいぜ!』
「うん、ありがとう」
やっぱり合格した後にこういう電話が来ると少し嬉しいから微笑んだ。
一樹兄は自分のことのように合格を喜んでくれるから、いい従兄弟に恵まれたなあとしみじみと思った。
「まだ実感が湧かないけど、星月学園に合格できてよかったって思ってるよ」
『そうかそうか、俺も嬉しいぞ、しかも入学式で新入生代表の挨拶をするときたら従兄弟として誇りだぞ!』
「………え?」
……いや、今、なんつったこの人。
『だから、新入生代表の挨拶、よろしくな!じゃあな!』
「え、ちょ、ま、」
次の言葉を言いかけた途端にぶつりと電話の切れる音。
言い逃げたなこの野郎…!
うなだれながら、仕方なく私は荷造りに入る。
前言撤回、やっぱりこんな従兄弟最悪だ!
*
そうこうして、いよいよ星月学園の入学式だ。
体育館の中、沢山の生徒たちが自分たちの席について静粛を保っている。
理事長の話をみんな聞いている中、私は頭を抱えて悶々としていた。
「新入生代表の言葉を暗記するのに時間かかったなあ…」
あの唐突な電話の後に、何日かかけて作った文章を必死に暗記した。
いや、なんでこんなことになったんだ……。
「えーっと、『桜咲く、穏やかな春の…』えー…」
早速一文目から詰まってしまい、イライラする。
……くっそー…、今度一樹兄に会ったらラリアットでもかましてやる………!
「…何をやってるんですか?」
「…え?」
すると、横からの囁き声がしたので、そちらを向いた。
その生徒は、身長が高くて、穏やそうかな雰囲気の人だった。
多分、席順からして神話科の男子生徒だ。
「いやー、文章を覚えるのに必死で先生の話を聞いている場合じゃないんだよね…」
「?文章…?覚える…?」
「まあ、見てれば分かるよ」
壇上をそっと見たら、神話科の担任が挨拶をしていた。
…これがまた穏やかそうな人だ。神話科ってもしかして穏やかな人たちの集まりとかなの…?
「そうだ、名前聞いてないね、あなたは?」
「僕?僕は青空颯斗です。あなたは?」
「私は、『次は、新入生代表の挨拶です』……あ」
青空くんに自己紹介をしようとしたら、先生のアナウンスによって遮られた。
訝しげにこちらを見る青空くんの前で、私は『一年星詠み科、樋口眞緒』という呼びかけにはい、と言って応じた。
私は立ち上がって横にいる青空くんに小さく「よろしくね」と言ったら、青空くんは呆けた顔でたっぷりの間を空けてから「あ、はい」と答えた。
おお、見事な驚きっぷりだ。
そのまま壇上に登って、理事長の女性(綺麗に微笑む美人さんだ)の前でさっきまで暗記していた言葉を言い始める。
「…桜咲く、穏やかな春の中、私たちの心は喜びで弾んでおります」
(その後、私は全文を難なく言えたのでした)
(そして、帰ってきたら青空くんは未だに驚いていたのでした。めでたしめでたし)(20110501)
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