入り口付近で皆でわいわいしていたら、月子ちゃんがそういえば、と言いながら私と錫也の方を向いて首を傾げた。
「二人とも、いきなりどうしたの?」
「ああ、そうだった」
錫也はそういうとずっと持っていた小包を月子ちゃんに差し出した。
……あ、そうだった本目的を忘れてた。
「差し入れ。お前が弓道部で頑張っているだろうからって」
「そ、で私はその付き添いー」
「わあ、嬉しい!二人ともありがとう!」
月子ちゃんはそれを受け取るとふわりと笑った。
うわあ、可愛いなあ……
一瞬でその場の空気が和む。これがマドンナパワーなのか…!
「はいはい、休憩時間は終わったよ」
「げ、もうそんな時間!?」
だけど、金久保先輩の一言で今度は和やかな空気がきりっとする。
きゅ、弓道部の集中力すごい…!
金久保先輩はそう言うとそのままこちらを向いて微笑んだ。
「東月くんも、樋口さんもわざわざありがとう、また来てね」
私は、その言葉に大きく頷いた。
弓道部いいなあ…素敵だなあ……!
16=こんにちは弓道部2
錫也と帰りながら、私はぼーっと考え事をしていた。
錫也が月子ちゃんに差し入れするなら、私も誰かに差し入れしたいなあ…
うーん…差し入れ、かあー…
「…私も、これからたまに龍之介に差し入れしようかな」
「………え、宮地くんだけに?」
「え、そうだよ、幼なじみなんだし。なんで?」
「…………」
え、なんで錫也黙ったの?
顎に手を添えながら考え込んでいる錫也におーいと声をかけたら、今度は錫也がじゃあ、と呟いた。
「料理部の活動の一環としてさ、弓道部に差し入れとかするのはどう?」
「!!なんか……凄く良い案だね…!よし、採用!」
今度、金久保先輩にも差し入れとしてどういうものが食べたいかを参考にするために聞いてこようかな!
あの人、抹茶類とかが好きそうだし!想像だけど!
なんか、和風な感じな人だし……抹茶のフィナンシェとか…ああでも弓道部皆好きかなあそういうの……
私は沢山のメニューを思い浮かべながら自分の世界に入り浸っていた。
…その後ろで、錫也が片手で顔を覆いながら困惑した表情をしていたとは思いもしなかった。
「………なんで宮地くんに嫉妬してるんだろうなあ、俺」
「……やっぱり中に小豆とか使うべきだよね、って……あれ、錫也ー?」
「!あ、ああなんだ?」
「……?変な錫也」
*
食堂に戻ると、哉太くんと四季が一緒にテーブルの上で伏せていた。
哉太くんはまあ置いておいて、四季くんまで来ていたとは。
苦笑しながらも私が哉太を、錫也が四季を起こした。
「哉太くん、おきろー」
「ん……んあ!おいてめえ樋口、さっきはよくも!」
「はいはい、ごめんねー」
今にも掴みかかりそうな哉太くんを軽くあしらう。無視するな!と叫ぶ哉太くんをよそに、近くで欠伸をした四季くんの頭を撫でた。
ああもう、四季くんかわいいなあ…!
「………あんた」
「え?」
「何か、新しいこと思いついた?」
「なんでそれを……って星詠みですよね」
何だろこれ、デジャヴ?
苦笑しながらそうだよって言ったら横から哉太くんが何?何やるんだよ?と興味津々そうに聞いてきた。
目の前にいる四季くんも気になるって顔をしている。無言で話すのを促されている気がして、慌てて要件を話してみる。
「今度から、部活の一環として弓道部に週一回差し入れに行きます!」
「差し入れ!?」
「だ、駄目……かな?」
ぽかんとする哉太くんと四季くんを見て、少しだけ後悔する。い、言うのいきなりすぎたかな…?
どきどきしながらも2人を見ていると、哉太くんが屈託のない笑顔を浮かべた。
「いいんじゃねえか?」
「、え」
「楽しそうじゃん。なあ、四季?」
「……うん。楽しそう」
今度は私がぽかんとする番だった。え、え、オッケーなの…?
後ろにいる錫也の方を見たら、錫也はこちらを見てから優しく微笑んだ。
「じゃあ、来週は何を差し入れする?部長さん」
――嗚呼。いいなあ…
弓道部も、もちろん素敵なんだけど。
料理部はもっともっと、最高に素敵な部活です。
(じ、じゃあ、抹茶ケーキとか…!)
(…ん?お前、目元赤くねえか?)
(き、気のせいだよ!)
((嬉しそうだな…))
(20111215)
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