「うわっ、汚い部屋…」

七海くんの言っていた保健室に辿り着いて、部屋の扉を開けて見えた光景に思わず目をしかめた。

書類やら本やらが散乱して、とても衛生が良いとは思えない状態の保健室。
周りを見回して、人がいないと気付いたので、七海くんの指示通りにベッドのカーテンを開けてみる。



「…………」

…そして、ベッドの前で困惑してしまった。



このベッドの布団のもっこり膨らんだところの中は、もしかししると、いやもしかしなくても、やっぱり七海くんの言う保険医がいるの…?




09=顧問は保険医?




先程、食堂で七海くんと交わした会話を思い出す。

『保健室に入っていなかったら、ベッド見てみろ』

『ベッド……?』


ベッドだから、誰かの看病をしているのかなあ、とか想像するところなんだけど…




「(どう見ても、寝てる…)」


目の前のベッドから、寝息が聞こえる。
もしかしたら生徒かも、と思っていたけど、ベッドの布団の端から白衣が少しはみ出ていたから、見事にその考えが木っ端微塵に打ち消された。

こりゃ、寝てるの絶対保険医だな。いやいやいや、保険医としてどうなのそれ…
布団の膨らみに手をおいて揺さぶってみる。



「………あのー」

「…………」

「起きてくださーい……」

「…………」

「……えっと、起きてくださいませんか?」

「…………」



…無反応ですが。
起きないんだよね、どうしようか…
保険医を起こせずに困っていたら、いきなりもぞもぞと膨らみが蠢いた。

驚いて思わずうわっ、と全く持って可愛くない悲鳴をあげた。


「ん………」

「!!」


もぞもぞと布団から出てきた人を見て、私は思わず息をのんでしまった。

保険医はこちらを虚ろな目で睨みつけてきた。


「……うわっとはなんだ、うわって」

「…………」

「……おい?」


保険医の言葉にはっとして我に返った。
あわてて謝ると、保険医は困惑したような表情をする。今、確実に怪しまれたかも…!


「あの…!七海くんから保険医さんの話を聞いていまして…」

「(保険医さんって…)ああ、なるほど…七海か」

「はい!起こしてしまってすみません」

「いや、構わない」



無言でベッドから出ると適当にあった椅子を持ってきてから私の近くに置いて座るように促された。
この人、優しい…!

保険医のお言葉に甘えて座ると、いつの間にか用意していた暖かいお茶を渡しながらそういえば、と保険医が話を切り出す。


「………お前」

「はい!」

「確かこの学園にいる二人目の女子生徒だな」

「あ、はい、樋口眞緒と申します」

「俺は星月琥太郎、保険医だ」

「はあ…」


外見で分かります、と言うツッコミはあえてしなかった。




「で、樋口、用件は?」

「あ、はい」



今から創立しようとする料理部の顧問になって下さいませんか!?





長話をするわけにはいかないと手短に用件を伝えたら、聞きながらお茶を一口飲んでいた星月先生がそれを聞いて驚いたのか、思いっきり噎せていた。

………やば、唐突すぎた?


「……いきなりだな」

「す、すみませんでした…」

「ごほっ、別にかまわないが、げほっ、なぜ保険医である俺を選択したんだ、他にも担任とかいただろ」

「他の知り合いの先生とかは他の部活の顧問やっていて…」


星月先生は面倒くさそうにため息をつく。
や、やっぱり駄目…?


「はあ、………まあ、やってもいいんだが」

「え!いいんですか?」


嬉しさのあまりに立ち上がりそうになったところを、星月先生はただし、と釘をさす。
すると、途端な顔が笑顔になった。
元々端正な顔立ちだったんだけど、笑う顔も相当綺麗な美人さんだ………!



「俺をやっかいなことに巻き込むなよ?部長さん」

「!………はい!」


「早くしないと生徒会に今日中に申請できないぞ」

「あ、はい、それではまた報告に来ます!ありがとうございました!」



慌てて頭を下げて保険室を出ようとしたら、後ろから星月先生が走るなよーと注意してきた。


*



保健室を出て、私はため息をついた。先程まで話していた星月先生を思い浮かべた。

緑がかったさらさらした髪に、紫の瞳。


「……そっくりだ」


私の大好きだった人に。





(大好きな大好きな、私の――)



(20110516)







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