「あっ、来た来た」
四季くんに付いていった先の食堂に着いたら、錫也が眞緒ー、と私の名前を呼んで軽く手を振っていた。
そんな錫也の横には、むすっとしながら腕を組んでこちらを見る(いや、睨みつける?)男の子が一人。
「……この人が部員候補さん?」
「俺はまだ入るだなんて言ってねえよっ!」
08=料理部メンバー!
未だにむすりとしながら食堂の椅子に座りながらそっぽを向き続ける七海哉太くん(という名前だと本人が丁寧に挨拶をしてくれた)。
無言で錫也になんでこんなにむっすりしてるの?と目で訴えたら、錫也が苦笑しながら折角昼寝していたのを叩き起こされて不機嫌なんだ、と言われた。
そうなんだ…というか、どうやってそんな不機嫌な七海くんをここに連れてきたんだろう…
「ま、いっか、まず錫也、こちらが部員になって下さるクラスメートの神楽坂四季くん!」
「……よろしく」
四季くんがぺこりと頭を下げると、錫也はよろしくね、と言って微笑んだ。
七海くんは未だにそっぽを向いている。少し怖い。
「じゃあ四季くん、約束通りに何かお菓子でも適当に作ってくるよ」
「うん」
「七海くんは?何か軽く作るけど食べる?」
「………………」
七海くんはちらりとこちらを見てから、悩んでいるみたいでしばらく黙り込んだ。
みんなが固唾を呑んで見つめる中、七海くんはようやく決心したかのように食べる、と呟いたので一気に緊迫した空気が和らいだ。
*
「はい、召し上がれー!」
数十分後に私は七海くんと四季くんの前にそれぞれお皿を置いた。四季くんは心なしか目が輝いている。
そ、そんなにお腹空いていたの…?
「即席クッキーなんだけど、ココアを入れてチョコレート味にしてみました!」
クッキーを置いたお皿に向かって七海くんは身を乗り出していて、四季くんも早く食べたいと言う目をしていた。
食べてもいいよ?と言ったら、二人とも嬉しそうにクッキーにがっつき始めた。
あ、四季くんもう二つ目食べてる…!
「うめぇー!」
「あ、それはよかった…」
「お前、お菓子作るの上手だな!錫也並みに上手い」
機嫌がよくなったのか七海くんは嬉しそうな顔をしてまたクッキーを食べる。
いやあ、よかった……じゃなくて、本題に入らなきゃ。
七海くんの方を真っ直ぐ見つめる。
「…で、七海くん」
「哉太でいいよ、俺も眞緒って呼ぶし」
「わかった、哉太くん。……料理部どう?入る気、ない?」
「全然いいぜ!」
「……随分あっさりと決めたな」
笑顔でそう言った哉太くんに向かって錫也が呆れたように苦笑した。
哉太くんはそれに対してまあな、と言うとにやりと笑った。
「錫也の料理も眞緒の料理も試食し放題じゃねーか」
その言葉に私と錫也はお互いの顔を見合わせて笑った。
哉太らしい理由だな、と錫也がまた苦笑する。
「じゃあ、部員もそろったことだし、後は顧問だよね…」
「陽日先生……は弓道部の顧問だし…」
「うちの星詠み科の担任は、ほかの部活の顧問やっているしね……」
私は錫也と一緒にため息をついた。
料理部を作るはいいものの、前途多難だなあ…。
すると、クッキーを全部食べ終えた七海くんが指先を舐めながらあっ、そうだと何かに気付いたかのように手を叩いた。
「星月先生なんてどうだ?保険医の」
「……保険医?」
え、保険医が顧問やっていいの…?
(大丈夫だよ、あの星月先生だし)
(んなアバウトな…)
(保健室に入っていなかったら、ベッド見てみろ)
(……なぜベッド……)(20110507)
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