一樹が、私にネックレスをプレゼントした。

それは、私からしたらかなりの衝撃を受ける事実で、何日か経った今でもにわか信じがたいと思ってる。



「ふふ、」


「あら綾瀬さん、随分嬉しそうね」

「あ、わかりますか?」

「顔を見ればわかるわ」



そう言って私に明るい声をかけてくれたのは私の担当の看護婦の皆川さん。
食事の持ち運びやリハビリの手伝いまでしてくれる方で、とても優しい人だ。


皆川さんは何か―多分配膳していた食事か何かだ――をごそごそと動かしながらふふ、と笑う。



「可愛いネックレスね、星がモチーフだなんてセンスいいわ」

……もしかしたら、私が星好きだからこのネックレスを買ってくれたのだろうか、と思うと笑みがこぼれた。

皆川さんはそれを見かねてか、穏やかな声音で尋ねる。



「ネックレス、着けてあげようか?」

「………いいえ、結構です」


これは、一樹に頼んで着けて貰いますから。

そう言ったら、皆川さんはそっか、と穏やかに返してきた。




*




皆川さんが出て行くと同時に、今度は病室のドアからコンコンココンと何度も音がする。

……こんなノックする人といえば、一人しかいない。



「どうぞ?桜士郎」

「くひひ、おっじゃましまーす」

「やっぱり桜士郎だ」



桜士郎もクラスメートで、誉ちゃんと同じく仲良くしてる一人だ。
彼は赤髪がとっても綺麗で、正直私からしたら羨ましい。



(…今は、もう見れないけど)


そういえば桜士郎がお見舞いにくるなんて初めてだな、と思っていたらまたくひひ、といつもの特徴的な笑い声がした。

私はそばにある椅子に腰掛けなよ、と言ったら、桜士郎はじゃあお言葉に甘えて、と言った。
がたりと音がしたから、多分椅子に座ったんだろう。



「久しぶりだね、桜士郎」

「久しぶりだねえ清花ちゃん、くひひー」

「……へへ、相変わらずの変態ぶりだね」

「清花ちゃんも思っていたよりも元気そうでなにより」

「……ふふ」



桜士郎と話ていると不思議と話題が絶えない。

大抵、私は人と話をする際によほど相手が気を許した相手でなければ会話が弾まない。つまり、私は桜士郎に絶大ともいえるほどに信頼を寄せているんだと思う。

他愛もない話をしながら、穏やかな時はあっという間に過ぎていく。
楽しい時間は、過ぎるのが早いと言うのは、本当だなあと改めて思う。


しばらくしたら、さっきまでずっと楽しそうに話していた桜士郎は黙り込んでしまった。


「…………」

「桜士郎?どうしたの?」

「……清花ちゃん」

「…何?」



いつものおどけた口調が一変して、かなり真剣なものになったから私も背筋をのばす。

長い沈黙の後、桜士郎はぽつりと呟く。



「そんな悲しげな笑顔だと、幸せ逃げちゃうよ?」

「っ、」


桜士郎は、気付いてたんだ。
……私が、必死に笑顔を作っていたことを。

どうしていいか分からなくなって、そのまま俯いてしまう。



しばらく沈黙が続く。
何か話さなきゃ、と内心焦っていたら、がちゃりとドアの開く音がした。



「清花ちゃん?」

「………皆川、さん」

「先生がお話あるみたいなの。……今、時間あるかしら?」

「あ………」


先生、というのは私の担当の先生のことだ。
どう答えようか迷っていると、桜士郎がいってきなよ、と明るく言ってきた。そのまま立ち上がった音がしたから、多分帰るんだろう。

足音がしてから、桜士郎はぽつりと呟いた。



「早く、帰ってきてね……清花ちゃん」




ありがとう、桜士郎。

そして、ごめんなさい。




*





「話って、なんでしょうか」

「あなたのこれからについての大事な話です」


先生は、真剣な声音だった。
大分してから息を吸う音がして、重大な話だろうな、と身構えた。

なぜか、とてもとても嫌な予感がした。




「単刀直入に言います。あなたはこれからを考えて、今の高校をやめて盲学校に入ることをお勧めします」



運命の歯車は、回るまわる。




(20111226)







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