清花が入院し初めてから、まるまる一日が過ぎた。

俺は学校が終わると、すぐに病院に向かう。
生徒会は、少しだけの間、あいつらに任せている。

笑顔でいってらっしゃい、と言われたときは、かなり嬉しくて思わず笑みが零れた。


(………清花)




あいつの、昨日の表情のない抜け殻のような笑顔を思い出す。
あいつがああなってしまったのは、きっと、いや絶対俺のせいだ、というのは分かっている。

俺が清花に生徒会の買い出しを頼まなければ。

俺が星詠みの力で予測することができたなら。

俺が、俺が………俺が。


考えてるだけで後悔の念が押し掛けてくる。



昔から、自分は沢山の人を不幸にしてきた。

両親に、月子。


もう、これ以上誰かを不幸にはしない、と。
そう思い続けていたのに。


…また、大切な人を俺は不幸にしてしまった。



「…………くそっ」


悔やんでも悔やみきれない、自分がもどかしくなって舌打ちをする。


ちくしょう…!






*



「入るぞー」


「あ、その声は一樹でしょう?」



病院に着いてから清花の部屋に到着して、ノックをすると返ってきたのは意外にも元気そうな清花の声だった。

がらり、と中に入ると清花は笑顔で俺を迎え入れてくれた。

いつもの、笑顔だった。




「調子、どうだ?」

「元気に決まってんでしょ?」

「はは、そうか」



通常通りの会話。
てっきり一人で落ち込んでいるのかと思っていたから、拍子抜けだ。

だけど、清花の横の人物を見て、納得した。



「あれ、一樹も見舞い?」

「……誉」


清花と誉は同じクラスだからか、すごく仲がいい。
俺が清花と知り合ったのは、こいつのおかげだ。



誉は俺の顔をまじまじと見つめると、真顔のまま清花の方に向き直った。


「……なるほど、確かにそうかもしれないね」

「でしょ?」


「…?何の話だ?」



何が何だかわからないので聞いてみたら、二人は少し笑いながら揃えて同じことを言った。




「「秘密」」

「はあ?」


俺が頭にハテナを浮かべている間も、こいつらはくすくす笑っている。
こちらからしたら、ものすごく居心地が悪い。




「じゃあ、清花、僕は帰るね」

「うん、誉ちゃん、ありがとうね」

「どういたしまして」


誉は、清花に笑いながら席を立つと、部屋から出て行こうと歩き出す。

二人を見ながら呆然と立ち尽くしていた俺に、誉は微笑みながら口パクで。




『どんかん』

「なっ………」


何かを反論する前に誉は病室から出て行ってしまった。
唖然と病室の扉を見ていた俺は、清花の声にはっと我に返った。



「一樹ってば!」

「、お、おおどうした?」

「立ち話もなんだから、座りなよ」


俺は相槌を打ちながら清花が指示した椅子に座る。

さっきまで、誉が使っていた椅子だった。
なぜか、もやりとした感情が溢れそうになって、すぐに頭を降る。……何だったんだ今のは…



「リハビリはどうだ?」

「うん、なんとかなってるよ?一人ででも生活できるようにしなきゃ」

「、だな」



リハビリと言っても、視力を直すためじゃなくて、盲目でも生活できるためのものなんだと思ったら、なんだか切なくなった自分がいた。


そうして、ふと思った。

俺は、こいつのために何かできることはないだろうか、と。




(20110610)







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