「失明、かあ……」


自分が失明した、と知った後、一樹はずっと私のそばにいてくれた。


励ますわけでもなく、哀れむわけでもなく、ただずっと私の手を握ってくれた。

だからか、本来は絶望しか感じていないはずなのに、微かに心は暖かい。
一樹の温もりは、闇しか見えない、今の私の心の中を照らす小さな星のようだった。







(、星)


そういえば学校はどうなるんだろう、とふと思った。




まず、授業なんか受けられない。


心理テスト程度のことはできるかもしれないけど、もう占星術は多分できない。

つまり、星月学園にはきっともう、いられない。

……星もきっともう、見ることはできない。


きっと、一樹とまた一緒に見に行こうと約束した流星群も、見ることはできない。





すると、一樹の手を握る力がさらに強まった。
……私の気持ちを察してくれたのかな。


私は、高校に入る頃から、一樹の優しさに救われていた。


昔も、そして今も。

一樹の力強い手に、ずっと支えられていた。








「………一樹」

「ん?」

「ありがとう」



素直な感謝の言葉。
本来の私だったらきっと、恥ずかしくて言わないはずの言葉。

一樹はこれを聞いて、きっと驚いてる。
目を見開いて、何言ってるんだこいつ、なんて思ってるに違いない。

容易に想像することができたから、くすりと笑った。



(けど、その表情も見ることはできないんじゃないか)






「……清花」


けど、一樹から帰ってきた返答は驚きなんか含んでなくて。
ひたすらに悲しい、という声だった。

息を呑む声ではなく、震えているような、切なさを含んだ掠れるような声。




何事か、と思っていたら、握られた手に、水滴が一粒、一粒と落ちてくる感覚がした。



いつも、悪態ついているばかりの可愛げのない私なのに、

一樹が、こんな私のために、悲しんでくれてる。



嬉しい、のに、かなしくて、どうしようもなくて。




「一樹、」

「………ん」


「一樹、かずき、か、ずきぃ………」





神様、かみさま。


大好きな星も、もう見ることはできないというのに。


一樹の、


怒った顔、困った顔、

泣くのをこらえた顔、

そんな中の、優しい笑顔でさえも。


(もう、見ることは、許されないのですか?)




泣きたいのに泣けなくて、ただただ、一樹の名前を呼び続けた。






私から大事なものが奪われていく。
既に自分はもう空っぽなのでは、とふと思った。


神様、あなたは、とても残酷だ。




(20110521)







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