……あれ、私、今まで何してたっけ。
あ、そうだ、一樹に生徒会の買い物を頼まれていたんだった…
買い物を済ませてから、一樹がおごるはずのアイスを食べるのが楽しみにして帰る途中だった、けど。
帰ろうとしたときに、ふと見たときの視界の中には道のど真ん中にいたおばあちゃん。そのおばあちゃんの後ろには、巨大なトラック。
もう、なりふり構ってられなかった。
走り出して、それで意識が途切れた。
その意識が覚醒した時には、辺りの視界が真っ白だった。
まだ、何か夢でも見ているんだって、思っていたんだけど。
(何も、見えない?)
目を開けているはずなのに、見えるのは白、白、白。
霧のようなぼやけた風景。
はっきりと見えるものは何もなくて。
………え、どういうこと?
耳で聞こえるのは、ピッ、ピッ、という電子音。
肌で感じるのは、管のような、プラスチックの感覚。
鼻で匂うのは、薬品のような少しつんとする臭い。
…多分ここ、病院だ……
「清花!」
耳元で聞き慣れた声がする。
聞き間違えるはずもない、この声は絶対に一樹だ。
「よかった、目が覚めたのか…!」
「…………」
嬉しそうな声だった、けど。
その表情は見えなかった。
ただの真っ白な霧の中の視界。
手をのばしてみると、手が握られるような感覚。
暖かい温もり。
……顔は見えないのに、どうして手の感触がするの?
ふっと、私は悟った。
あまりにも、冷静に悟った。
「……清花……?」
「一樹、私ね、」
これは夢の中なんかじゃないっていうこと、そして、
「何も、見えないの」
視力を、失ってしまったこと。
――――――――――――
く、くらい……!
ちょっとくらいは甘くしたいけど、シリアスが強めに出そうだなあ……
失明したとき、視界は闇ではなくて白い霧みたいらしいです。初めて知った…
(2011)
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