2つ上の学科の先輩が本当に嫌いだ。会う度に綺麗な女の人と歩いているくせに彼女では無い。しかも毎回違う人。それはミス大学だったり学科1美人な子だったり、可愛いと噂のある子だったり美人な助教授だったりするわけだがとにかく、そんなチャラチャラした先輩が本当に嫌いなのだ。頭も良くて顔も良い。おまけに金持ちで紳士的。少し体が弱くて運動はしないらしいが天はどうやら先輩に二物も三物も与えてしまったようだ。先輩が通るのを見る度にキャーキャー黄色い声をあげる女の子たちを尻目に、今日も私は溜め息を吐く。先輩の名前は、竹中半兵衛

「おや、名前くんじゃないか」
「あ先輩こんにちは本日はお日柄も良いので私はこれで」

本日の対面は食堂。何故か竹中先輩は私を見つけてはまるで自分の育ちの良さを見せびらかすように私の前に姿を見せ話し掛けてくる。テーブルでからあげ弁当をつつく私の前に立つ竹中先輩とその横に腕を組んで私を見下ろしてくる美人なお姉さんから香るのはきつすぎるバラの香水。本物のバラの匂いなんて嗅いだことの無い私にとってはただの不快な匂いに代わりなく、それが竹中先輩からも漂ってくるということは大方先程まで医務室かどこかで交じり合っていたのだろうと安易に推測がついた。そんな解りやすい態度と香りからくる考えたくもない男女の性交が脳裏をよぎりすっかり食欲が無くなってしまった。気持ち悪い。ただニヤニヤしながら私を見下ろす竹中先輩を一睨みしプラスチックの弁当の蓋を乱雑に閉め立ち上がりそれ以上言葉を交わす事無くその場を後にした。なんだか無性に腹が立ったので次の教室に向かう途中に見つけたゴミ箱にまだ半分も食べていないからあげ弁当を思いきり捨ててやった。

「名前」
「…今度は何ですか。用が無いなら消えてください」

竹中先輩は私の行く先々にこれでもかというくらい現れる。殆どの場合が違う綺麗な女の人を連れて自慢げに私に話し掛けてくる。そんな先輩が本当に嫌いで仕方がない。なのにたまに先輩は、ひとりで私の前に現れる。辛そうな顔をして目の前にたっている。それが演技なのだということくらい見れば直ぐに分かってしまうが故に、私は先輩を見るだけで腸が煮えくりかえりそうになる程、腹が立つのだ

「酷いな、僕は君に話し掛ける事も許されないのかい?」
「何当たり前の事言ってるんですか。話し掛けないで下さいさようなら」

その声も格好も全てが憎くて、腹立たしくて、それでもこんな場所で大声を上げるほど子供ではない私がそれだけ言って先輩の横を通り過ぎようとしたら去り際に思いきり手首を掴まれてしまった。痛い。どうして先輩はこんなにも私に嫌がらせをするのだろうか。私の何が憎くて私を困らせるのだろうか。私が先輩を嫌いな気持ちよりも、もしかしたら竹中先輩が私を嫌いだという気持ちの方が大きいのではないかと考え付いた頃には、竹中先輩はまた嫌味な笑みを浮かべて私を引き寄せる

「ねえ、ねえ名前」
「何ですか離してください授業なんです」

「嫉妬はしてくれたかな?」

人目も憚らず思いきり抱き寄せられ、香る先程のバラの香水に反吐が出そうになった。嫉妬なんて馬鹿げた台詞をなんの恥もなく平気で口にする竹中先輩の神経を本気で疑ってしまいそうになったところで、私はつい先程まで忘れていた現実と向き合う羽目になった。竹中先輩がそのまま無理矢理私の唇に自分の唇を押し当てて来たせいだ。今度は直に味わう女性特有のリップクリームの味にこれ見よがしに顔を歪めると、待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべた竹中先輩が本当に大嫌いで憎くて、その唇を思いきり噛んで離れた

そうだこの先輩は私の、彼氏だった
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