幼馴染みの事を改めて幼馴染み、と紹介するなんて馬鹿げていると激しく避難したくなるのは自分だけなのだろうかと、大嫌いな現代文の授業中に開いた教科書右下に四角く囲われた小さな写真の中の男性に落書きしながら名前はため息をついた。作者なんて知らない。大体小説の中の登場人物の心情を読み取れだなんて無理難題なのだ。そのような表記があるのであればまだしも前後の行動や少しの言葉だけで読み取るだなんて、実際の人間でもあるまいしなにより、それは作者にしか分かり得ないのでは?と思ってしまったが最後、国語という学問に関心がいかなくなってしまったのだ。漢文やいわゆる評論、論文について延々と考察していた方がどんなにマシなのだろうかと思った頃には、既に教科書右下の写真の中の男性の顔はピエロのような様になっていた。

「貴様、また下らない事に時間を費やしていただろう」
「いや、そんなことないんだけどなあ」
「ならばこの教科書の様は何だ。夏目漱石の髭がこんなに長いとは思わなかったが」
「いやあ、ほらよく髪の伸びる日本人形とかあるじゃない?ねえ」
「貴様には勉強がしたくなくなる呪いが掛かっているらしいな」
「こわーいいしだくん」
「死ね」

いつの間に授業は終了したのだろうか。声の聞こえる方へと目線をやるとそこには幼稚園からの付き合いである、所謂幼馴染み石田三成が立っていた。相変わらず無表情の口から繰り出される言葉には棘が生え、その武器で相手を射殺さんとばかりに攻撃してくる。似たようなやり取りを何度繰り返せば終わりが来るのだろうかと目を伏せる名前に石田は更に大きなため息をひとつ、自らが先程までペンを走らせていたノートを一冊机に乗せた。ばさりと音がするより少し後に再び顔を上げたときには、石田は名前の前から立ち去っていた。

幼馴染みとは何なのだろうか。
結局それから会話をする事なくいつも通り借りた石田のノートを眺めながら夕日を背に教室に佇むのは名前ひとり、部活が休みなのを良いことにぼんやりと考えてみることにした。クラスの女子A は名前を羨ましいと妬んでいるらしい、帰りのホームルーム終了後に付き合っているのかと今年初めて同じクラスになったというのにも関わらずそれ以外の身の上話を差し置いて、彼女はそんな事を口走った。違うとかぶりを振ったところで名前の真意を認める者はいない。羨ましいと嘆きながら女子Aは去っていった。考えて見れば今まで読んできた小説ではいつも幼馴染みは名字ではなく名前を呼び合っいた。しかし残念ながら名前と石田は名前を呼び合っているわけではない。違う小説には過去を共有出来るなんて言葉が綺麗な表現と共に装飾され並べられていたが生憎名前は石田の過去を全く知らなかった。同じ学年同じクラス、それがちらほら小学校中学校、そして高校と続いているだけで特別同じ時間を共有した事など無いのである。心を開いている、なんて言葉はお世辞でも言えないだろうとグランドを懸命に走る名も知らない野球部員を見ながら思った。心を開いていたらきっと口数は少なくとも今より多い筈だし何より、冷たい態度など取らない筈だから。

「こんなの、なにがいいんだかね」

つまるところ、彼女達は私に嫉妬しているわけではないんだよね。と名前は誰もいない教室で呟いた。要するに石田と関わりがあるという事が重要なのである。どのくらい仲が良いのかが問題なのではなく幼馴染み、というククリが彼女達の渇望する枠組みなのだ。勿論理解なんて出来そうに無い。欲しいのならばくれてやりたいくらいだ。一生懸命頭をフル回転させた結果がこの結末かと頭を抱えた頃には時計の針が5時を指すところだった。馬鹿らしい、何を一生懸命になっているのだと借りたノートを鞄にしまい椅子を引いて立ち上がったのと同時にガラガラと教室のドアの開く音が聞こえた

「貴様、こんな時間まで何をしている」
「あれ?もう部活終わり?」
「明日からテスト期間だろうが馬鹿者。そんな事より何をしていた」
「何って、うーん。石田のことかなあたぶん」

曖昧に笑って見せると存外、石田は驚いたようにその細い目を大きく見開いた。部活上がりの石田は前髪の形がおかしい。剣道部だったか囲碁将棋部だったかは忘れてしまったけれど、きっと本気で部活に励んでいるんだろうと納得する名前の心の声は石田には届かない。少しの沈黙の後特に教室に入ろうとする素振りを見せない石田を見やると石田は廊下の先に目線を移した

「帰らないのか」
「え?いや、うん帰るけど。石田なんか取りに来たんじゃないの?」
「忘れた、そんな事より早くしろ。あまり遅れると貴様の母親に私が叱られる」
「どんまいだね石田」

校舎を出て自らの愛用する自転車を引きながら少し先を歩く石田を見やる。背丈もすっかり伸び、自分とは相間見えない世界を歩き出した昔馴染みのこの男をなんと見るか。確実に自分が周りの考えるような関係に無い事は確かであるが、こうしてたまに共に時間を過ごすこの男の事を、どう考えるのか。それでも、決して速くはない歩み方の名前を気にするようにちらりと後ろを振り返る石田に昔とは違った、少しだけませた感情が沸き上がるのはやはり、幼馴染みという枠組みがそうさせているのかもしれない。

「今日はうちカレーらしいんだよねー」
「貴様忘れたのか、今日は貴様の家族と私の家族で外食の約束があった筈だ」
「あれ?そーだっけ?じゃあ早く帰んなきゃねー石田その横に引いてる自転車乗っけて」
「…チッ、早く乗れ」

分かりやすく舌打ちをする石田の優しさは断らないところ。それが自分に向いている内は甘えてしまおうかと、自転車の荷台に跨がり変な方向に跳ねた石田の髪を思いきり引っ張りながら名前は笑みを浮かべた。幼馴染みという関係を、利用するとしたらこんな事くらいしか、今の名前には思い付かなかったのだ

まだ春も見えないとある一日



( 三成!お前今日は名前と帰るのか? )
(何故私が )
( いや、教室の方を見たら名前が見えたんだが、ワシの勘違いかも )
( …チッ、帰る )




つまり石田さんは主が好きっていう非常に分かりにくいはなし。主はそれがなんなのか分からない鈍感やろうっていう分かりにくいおはなしでした
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