隣のクラスに転校生がやってきた、それも目を見張るような美人だというものだから同じクラスの伊達と共に他の野次馬と一緒になって隣のクラスに乗り込んだ先にいたのは、座っているその席に誰も近づくなと言わんばかりのオーラを放った、男子生徒だった。近年稀に見る銀髪に人一人射殺し兼ねない前髪、ドギツい目付きで周りを圧倒するその威力。確かに横顔はその辺の不細工な女子より断然美人かもしれないが、あれでは怖すぎる。だからなんだつまらないと同じように声を上げた伊達と一緒に自分のクラスに戻ろうと踵を返した時、女子生徒特有の高音が私の耳に入った

「みつ、なりくんだよね?これから、宜しくね!」

みつなり、と今少女は言ったのだろうか。振り返ると見えたのは学校如きで髪の毛のセットをしっかりとし過ぎている印象を受ける女子生徒だった。何を気にする事無く教室へ戻ろうとする伊達の腕を咄嗟に掴み、私は再びその声のした教室へと歩みを戻した。そんな今時珍しい名前を、私は一人しか知らなかったからだ。

「…」
「み、みつなりくん?」

転校生の気を遣ってか単純に自分が転校生に興味があったのか、どんな理由があったにせよ女子生徒の健気な呼び掛けはあっさりと無視という形で返ってきた。可哀想、なんていうクラスメート達や野次馬達の声を気にする事無く変わらず窓の外に目をやる転校生はこの時点で、この学校での青春は終了したなと私は心の中で毒吐いた。正直苦手なタイプの人間と話すのは嫌だし面倒だという気持ちも痛いほど分かったしあからさまに好意丸出しな女子生徒への対応ほど億劫なものも無い事を察する事が出来る。しかしそれを転校初日でやって退けてしまえば何かしらの暗い事情がある関わってはいけない人間か、ただの地味野郎か、或いは漫画や小説の読み過ぎな中二病だと思われてしまうのは当然の報いで、ましてそんな人間に近付いてしまった生徒は勇者と呼ばれるか偽善者と呼ばれるか。何れにせよよっぽどこの学校の人気者にでも気に入られない限り彼に明るい未来は無い。まあそれ以前に、私には彼が、そんな未来など望んではいないように映ったのだけれども。やはりこの転校生は私の知る人物では無いらしい。私の隣でladyに冷たくするような奴は、なんてお得意の英語をかます伊達の腕を離し再び教室に戻るよう促した時だった

「気安く私の名を呼ぶな…!」

転校生の低く唸るような声がクラスを通り抜け廊下に木霊した。凍てつくような声が刃となって女子生徒の胸を刺すのが、手に取るように分かった。あれからずっと転校生に話し掛けていたのだろう女子生徒はその大きな瞳からぽろぽろと涙を溢しながら大勢の野次馬を掻き分けトイレのある方へと消えてしまった。いよいよ酷くないか?なんていう声が聞こえ始めたところで、その声に耐えかねたのか面倒になったのか、転校生はガタリと大袈裟な音を立て席から立ち上がると遠巻きに彼を見る生徒達をギロりと一睨み、慌てて散り散りになる野次馬達が群がっていた教室のドアに向かってスタスタと足を向けた

「Hey名前、あのいけ好かねえ転校生こっち来るぜ?」

「…名前、だと…?名字名前か…?」


伊達の私を呼ぶ声に反応しようとした私の声は、うつ向き気味にこちらへ向かってきた転校生の悲痛そうな声によって掻き消された。それどころかその転校生はゆっくりと、私の名前を呼びながらその長い前髪の横から見える鋭い目を私に向けた。しん、と教室が静まり返る。おいおいまじか、なんて呑気な事を言っている伊達の声に反応も出来ない理由を私は、しっかりと理解していた

「みつ、なり…三成…?あの、石田三成…?」
「貴様を、ずっと探していた」

ゆっくりと伸びてくる腕に体を抱き込まれ身動きの取れない私の首元に顔を埋める転校生は、私がこの地へと引っ越す前、幼い頃よく遊んだ、近所の子供だった。

青春終了

先程哀れに思っていた事が、そのまま自分の身に降り掛かるなんて
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