to exsist is to be perceived | ナノ



5回目に三成くんに会った時、彼は泣いてはいなかった。前回彼は泣きながらあたしにまた裏切るのかと聞いた。またとはどういう事なのか、昔あたしが彼を裏切った事はない筈だ。何故なら彼とはまだ出会ったばかりだったから。あたしが昔彼を裏切った事があるのかと聞いたら彼は、かぶりを振って分からないと答えた。衝動的に言葉が出たと、彼は言っていた。あたしが徳川先輩と一緒にいるのを見たから、と彼はつけたしあたしの頭はこんがらがるばかりだったがそれは三成くんも同じらしく、その日はそのままお互い帰宅した。そうして今日、目の前にいる三成くんはいつもの三成くんだった

「今度はさ、一緒にご飯とか食べにいかない?」

「ああ」

彼はやはり短い言葉でしか返事をしないために約束なども曖昧なままに終わってしまう事が多い。他にも連絡先を教えて欲しいと言ったときも今度と言ったままだしあたしの通っている大学を見にいくという約束も、先延ばしのままである。もしかしたら彼にはそのどの約束を果たす気が無いのかもしれない。だけど肯定してくれるのをいいことにあたしは絶対だよ、と付け足しながら毎回約束を増やした。

「そういえばさ、彼女とかいないの?」

「彼女?お前こそ、どうなんだ」

「あたし?あたしは「名前!」

いない、と答えようとした時後ろから声が聞こえた。振り返るとぱたぱたと徳川先輩が走ってくるのが見えたので今度こそ三成くんを紹介してやろうと先輩に手招きした。どうやら今学校が終わったらしい彼は筋肉質な腕にに大きな辞書のような教材を抱えていた。

「徳川先輩!こんにちは。あ、それと前回紹介し損ねたので紹介しますね、彼が三成くんです」

あたしの横にいる彼の方を指しながら彼の名前を上げた途端、徳川先輩はまるで力が全て抜けたように持っていた教材を全てコンクリートの上に落とした。ドサッと音を立て見るからに重そうなそれらは無造作に転げるもお構い無しに先輩は血相を変えて辺りを見回し始めた。


「三成…?三成がいるのか、?どこだっ?!あいつは病院に…」

「…え?」


あたしがばっと振り返るとそこには変わらず三成くんが立っているのに、徳川先輩は彼を見つけようとと辺りを必死で探している。どうして?彼はあたしの横にいるのに、彼には見えていないのだろうか。なんだか胸の辺りがモヤモヤし始めて、あまりにも徳川先輩が必死で三成くんを探すのにも疑問を覚えて、少しでも安心したくて三成くんの方を向いたら、彼は今まで見たこともないような形相で徳川先輩を睨んでいた。おかしい、彼はなにも覚えていない筈なのに。あたしの知り合いなんてひとりも知らない筈なのに


「家康、家康、いえやすうううう!!!!」


三成くんは徳川先輩の名を叫んだ。鼓膜が破れそうになるくらい大きな声で絶叫した。あたしが思わず耳を塞いで地面にしゃがみこんだところで徳川先輩がその様子に気付きあたしの傍へと寄ってきた。三成くんはあたしを冷たい目で見下ろしたまま許さない、許さない許さないと呟いている。どうして、どうして。声をあげようとしたところで、三成くんはどこかに行ってしまった

「どうしたっ、名前?!何があったんだ!それにお前、どうして三成の事を…まさか、思い出したのか…?」

「三成くん、は…?」

「三成ならここにはいない。あいつが、ここにいる筈がない」


「え…?」


彼の声はもう消えたのに、胸を抉られるような感覚が消えてくれない