to exsist is to be perceived | ナノ


10回目に彼に会ったのは病院だった。本当はそのずっと前から数えきれないくらい彼に会ってきたしこれからもきっと数えきれないくらい彼に会うことになるだろう。だけど彼が退院する、透明だった彼に会ってから10回目、彼と再スタートを切る1回目の今日をきっとあたしは忘れない。彼はあれから病室へ戻った。記憶の戻ったあたしと事故以後初めて目を覚ました彼に周囲は驚き戸惑ったがとても喜んでくれた。

「やっほー三成くん、こんにちは。お土産持ってきたよ」

「そこに置いておけ」

話によると三成くんは事故以降暫く暗闇にいたらしい。それが突然2つに分離し、あたしがずっと会っていたのはその片方なのだと彼は豪語した。信じられない話だが彼は確かに魂だけが分離しあの花屋の下に行っていたのだ。では何故彼は記憶が無かったのか。それは完全に魂の以降が済んでいなかったから。つまり、彼の記憶が戻るということは彼の魂か体を離れ別のところへ行くということ。それが表すのは、彼の肉体の死だった。だからすべてを思い出したとあたしの部屋にやってきた時、確かに彼の身体は状態悪化にあったと徳川先輩は言った。では何故、彼はその状態を克服出来たのか。正確な事は分からないが夢を見たらしい。その夢をもう覚えてはいなかったが気がついたら暖かいところにいて、突然真っ白な空間に置かれたかと思いきや向こう側から自分が歩いてきてそのまま自分の中に入ってきた。というのが彼の証言だった。だから幽霊?生き霊?の三成くんの記憶を今目の前にいる彼が持っているのだという。

「ねえ三成くん、いつ遊びに行く?あたしいきたいところ沢山あるんだけど」

「その前にお前は先ず私とした約束を果たせ」

ゆっくりと体勢を起こした彼は棚の中から大きな袋を取り出した。見覚えのあるロゴのついた袋から覗くのはあたしの好きなスズランの花だった。誰から聞いたのかどうして知っているのか、だけど彼は確かにあたしの好きな花を知っているしきっとだからこそあの花屋の下にいたのだろう。

「これを渡そうと思っていた。お前が好きだと家康が言っているのを聞いた。あいつが知っていて私が知らないのは不平等だと思ったんだ。悪いか、私と名前はあんな奴よりずっとずっと昔から共に在ったのだ。」

押し付けるように渡された花束から香る匂いはとても心地よくて、花束を胸に抱いたまま彼の細い体を抱き締めた。彼の言葉は強く儚い。だからこそもう離れないように、約束を果たせるよう忘れないよう、これから先ずっとずっと何百回何千回何万回彼に会えるよう腕を抱こう

「もう離れないよ」

「当たり前だ、私を裏切ることは許さない」

「約束を守るよ」

「当然だ、お前はこれからもずっと私と共に在れ」


口付けた感覚を忘れないように、約束を破らないように。もうどこへも行かないように