to exsist is to be perceived | ナノ



9回目に彼に会おうと病院を訪ねたら、徳川先輩が丁度病院の受け付け窓口の前に立っていたので声を掛けた。彼は心底驚いたような顔をしたが、満面の笑みで思い出したのかとあたしの両肩をガッチリ掴んだ。三成くんは徳川先輩の幼馴染みで、大学の同期だった。

「記憶が戻らないのなら、その方が良いのかもしれないと周囲と相談したんだ。記憶を無くす前のお前は三成をよく知らなかったし、三成が一方的にお前を追い回していたからな。ただでさえお前には迷惑を掛けていたんだ。事故で三成の記憶を無くしたお前に三成の面倒を見ろと言う者はいなかった。むしろ三成の両親はお前の両親に申し訳ないと何度も頭を下げていた。」

「そ、んな…でもあたしのせい、なのに…」

事故の後、確かに周囲から石田三成の名を聞くことは無かった。徳川先輩も、見舞いにいく先は友人の元だと常日頃から言っていたし、それが三成くんだった、なんて。思い出せば思い返す程申し訳無い思いで胸がいっぱいになる。要するにあたしだけが彼を忘れてのうのうと生きていたという事。周りの苦しみも、彼との約束も知らずに。

その後やってきた三成くんの両親に記憶が戻った事を説明すると彼の両親は目に涙を浮かべながらあたしに頭を下げた。彼をこんな目に合わせたのはあたしの筈なのに辛そうに頭を下げる彼の両親にあたしも沢山頭を下げた。理解出来ていなかったのはあたしの方なのだから。むしろあたしが、彼の両親に頭を下げなければいけないんだ。

「あたしは、大丈夫です。彼は約束を覚えていたのに、あたしが忘れていたんです。だから、大丈夫。今度はあたしが彼との約束を果たすために、彼を待ちます。彼の傍で」

そう彼の両親に告げると、涙を浮かべていた彼らは涙目のまま嬉しそうに笑みを浮かべた。彼の父親は彼に似てスラリと長身の素敵な男性で、母親は彼そっくりの温かい心を持っていた。

「よし!じゃあ、行くか。ワシも早く三成に会いたいからな!」

にこやかに場を和ませてくれる徳川先輩に続いて、悲しい話を打ちきりに笑みを浮かべながら病室へ向かおうと足を踏み出したときだった。ナースセンターから石田さん!と大声で彼の両親を呼ぶ声が聞こえた。振り替えると医師がひとり、看護師が何人か血相を変えた様子ででこちらに駆けてきたので足を止めると、ひとりの看護師が息絶え絶えに顔を上げた


「三成さんが、いなくなったんです」


あの馬鹿。
途端心配の色を顔に浮かべ足元をふらつかせる彼の母親を父親が支え、徳川先輩が原因を詳しく聞き終わるのを待っている事が出来なかったあたしは誰の制止も聞かず病院を飛び出した。なんだか今日は走ってばかりだ。後ろからは相変わらず待てと声をあげる徳川先輩がいたがいたが三成くんの行きそうな場所にはとっくに、見当がついていた



「幽霊さん、会いたい人には会えましたか?」



彼はいつも着ていた、事故のあの日にも着ていた服を身に纏いゆっくりと振り返った