指輪 | ナノ
 

薬指の呪縛
 

「可哀想な目」

友人の柳に連れてこられた元立海大テニス部の同窓会というか定期集会のようなものに顔を出した時、私の通っていた学校の中で一番際立っていた人物のひとり、幸村精市くんにそんな事を言われた。可哀想な目、というのは私が悲しい表情をしているという意味なのかそれとも私の目の造りがあまりにも不格好で可哀想という意味なのかは読み取れなかったけれど、あの頃決して近くで見ることが出来なかった立海大テニス部の面々に緊張し柄にもなくそうかな、なんて曖昧な返事をしてしまった。それっきり幸村くんと話す機会はなくて、気さくな性格の丸井くんや切原くんと学生時代の思い出を語らい合った。テニス部になんの関係も無かった私は柳以外のテニス部員と話すのは初めてで、どうなるかとも心配したのだけれど存外楽しむことが出来たと思う。帰る頃には最初怖くて近付けなかった真田くんや仁王くんとも仲良くなることが出来て、連れてきてくれた柳には本当に感謝している。

「君は、蓮二の恋人なの?」
「まさか、だって幸村くんも知っているでしょう?柳には恋人がいるよ。でもそれは私じゃない」
「なら、」

この薬指に填められた指輪はなんだい?と酒屋では終始笑みを浮かべていた彼が私の手を取ったのは柳が丁度酔い潰れた切原くんをタクシーに押し込んでいる時だった。私の薬指の指輪の意味を、彼は知らない。柳の薬指にも填められたお揃いの指輪は私達に掛けられた呪いの証、だから恋人という関係を持たないくせに私達は共に行動する時この指輪を填める。もう私達が傷付かないようにと願いを込めてふたりで選んだ呪縛の指輪を、幸村くんの細くて長い指先がゆっくりとなぞる。月明かりに照らされてきらりと反射するシルバーのシンプルなそれは、幸村くんの目を細めるばかりだった。幸村くんは不思議な人だ。誠実で清らかな人だということは今日の話の中で分かったのだけれど、彼の周りを取り巻く雰囲気は、私の構成する言葉では到底表しようのないものなのだ

「名前、帰るぞ」
「あ、うん。じゃあ幸村くん、今日は有難う」
「俺こそありがとう、名字さん。またね」

戻ってきた柳が私の名前を呼んだ。昔から変わらない心地よい低音にくらりと体が傾いてしまいそうになるのを抑え、私と再び距離を取った幸村くんに軽くお辞儀をし先に踵を返した柳の後を追おうとしたら、去り際に聞こえたまたねの言葉が、なんとなく本当に次があるように聞こえてしまって、それを考えたくなくて急ぎ足で柳の空いている左手に自らの右手を重ねた。揃いの呪縛は今日も、私達を離さない



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