subconsious | ナノ


「石田さん、早く、こっちです」
「貴様、いつもの3倍近く歩くのが早いぞ」
「だって今日は」

石田さんと久しぶりに遠出をする日なのだから。春休み真っ只中、引っ越しを終えた私達は只今電車に揺られること約1時間、郊外に位置する地域最大規模のアウトレットモールにやってきた。そろそろ春に備えなければいけないし以前石田さんに着せていた元彼の洋服はすっぱりと捨ててしまったので石田さんには少しの服と部屋着しか持っていない事になる。丁度春物セールを実施するという広告を学校近くの商店街で見かけたのをきっかけに石田さんに持ちかけたのが4日前。最近新しく始めた私のアルバイトの関係でなかなか休みが合わなかったものの遂にその日を迎えたのである。私も春服は何着か欲しかったところだし石田さんへの服も安く買えるとなればこれより良い事は無いと乗り込んだのだが、浮かれすぎて石田さんを引っ張ってしまっていたようだ。いつもならば私の歩みが遅いと怒られるところが今日に限っては速すぎると怒られた。しかしそのくらい、私は石田さんとの遠出を喜んでいるという事である。まあ、少しだけ、ほんの少しだけ久しぶりのショッピングに浮かされているというのもあるのだけれど。兎に角来たからには楽しまなければいけないと私は石田さんの手を引き一軒目の店に入った

「ほんと、なんでも似合いますよね石田さんって。ずるいなあ」
「名前こそ、着て悪い服は無かった」
「服は悪くはないけど私には似合ってないって、素直に言ってもいいんですよ?」
「いいのか?」
「絶対ダメですけどね」

なんてデリカシーの無い、とは思ったけれど言わない。石田さんはとっても素直な人だから冗談や嘘を言えない事をこの生活の中で知ることが出来たし、なんとなく気になって調べた日本史の新書には徳川側の反略に強い憤りを感じたと書いてあった。豊臣に生涯忠誠を尽くした真っ直ぐなひとだとそこにはあったけれどまさしくその通りだと思う。だけどこんなに顔もスタイルも良い人が40歳くらいになった時にあの本のイラストのようなおじさんになるのかと思うと少し面白かった。でもきっと、あのイラスト通りの年の取り方はしないんじゃないかと思う。隣で先程教えたチノパンを手に取り無言でにらめっこする石田さんを眺めながら、彼がどんな風に年を取っていくのか、成長、というよりかはもう老いなんだろうけれども。30歳40歳50歳、どんな青年になってどんなお父さんになってどんなおじさんになるんだろうか。少しだけ、その姿を見てみたいなと思った。それが決して叶わないからきっとこんな事を考えてしまうんだなとは思いつつも、なんとなく、石田さんの生涯というものを近くでずっと見ていたいと私は思った

「名前」
「はい?」
「貴様はこれを買え」
「これは?」
「決まっているだろう。貴様の衣服だ。これは、貴様が着ても問題無い」

言いながらずいっと押し付けるように手渡された淡い紫色のワンピースに、私は思わず笑みを溢してしまった



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