subconsious | ナノ


夢は現実の投影であり、現実は夢の投影である。 ――フロイト


「石田さん、それはそっちにお願いします」
「先程はこちらだと言ったのは貴様だ」
「考えたらこっちの方がいいかなと思ったんですけど、お願いしますね石田さん」
「次は考えてから発言しろ」

よく晴れた木曜日の午後、私達は次々に運び込まれてくる荷物の置場所と格闘していた。後期試験を無事に終え単位を獲得する事に成功した私は文学部からのあっせんで次の一年、学費50%免除で通える事になった。50%といえば年間110万掛かる私の学費が55万になるというわけなのだが生憎私は文学部ではない。何故文学部のあっせんなのか科に問い合わせをしたところ私が以前書いた論文が文部科学省後援のコンクール最優秀を獲得したからだという回答をもらった。確かに当時聞いていた一般教養の講義に文学の理解という授業は存在していたし自由研究課題として論文をひとつ提出した事も覚えてはいるけれど、他の優秀な文学科の学生さんを差し押して、と思うと少し申し訳ない気もした。それでも喜んで受け取っておきなさいという助教授さんの言葉に甘えさせてもらって、私はつい先日学費を半分だけ振り込んだ。両親から送ってもらっていた残りの学費の半分を返すと電話をしたところ、ならばもう少し良いところに住んでみてはどうかと言ってなんとお金をそのまま私にくれたのだ。確かに私が大学進学当時から住んでいるアパートは古めだし狭い。しかし迷惑は掛けられないと言ったところで受け取っては貰えず結局私は、引っ越しをすることを決意したのだ。親にも申し訳ないという思いでいっぱいなのだけれど、確かに石田さんが来てからどっと狭く感じるようになった部屋はそろそろ替え時なのかとも思った。だから大学から近くて少し高いアパート、とは言わずにむしろ少し遠くて今くらいの値段の、少し広い部屋に引っ越す事にしたのだ。部屋が2つ、なんて都合の良い事にはならなかったがルームシェア用の大部屋が空いているという学生に優しいレオハレス31さんのアパートに手続きを完了させた私達は今日遂に、それを果たしたリビング、キッチン、トイレと風呂は別々、それに大きな寝室。これで今までと同じ値段で住めるのだから私は120%満足している。しかも学生向けということでベッド含めてフルオプション。朝は少しだけ早起きすれば問題無いし、なんだか新たな一歩を踏み出した気分で私は引っ越しの片付けをしていた

「これでやっと、二人ともベッドで寝れますね」
「睡眠など」
「駄目ですよ石田さん、しっかり食べてしっかり寝る事がここでの石田さんの任務です」
「食べているし寝ているぞ私は」
「なにも聞こえませんよ。あ、その段ボールは寝室にお願いします」

石田さんは相変わらず私と一緒に住んでくれている。大谷さんのところ、というか大学病院の院長さんが石田さんの部屋も用意してくれるという話もあったのだけれど石田さんはいかないと言ってくれた。きっと私の事を気遣ってくれたんだと思う。普通なら迷惑だし出ていく、なんて言いそうなところなのに彼はとても、私の性格を知っているようだった。それでもそれが私にはとっても嬉しくて心地好くて、だから私はもう少しバイトの時間を増やしてでも、石田さんに負担の無い生活を送らせてあげたいと思った。春の予感がそこまで来ているよく晴れた日、私はこれからも彼とのんびり過ごしていきたいと思う

「石田さん、今日はここまでにしてご飯の材料を買いに行きませんか?」
「名前、貴様は腹が空いていない時は無いのか」



2/3
prev:next



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -