謳歌 | ナノ

「真田ー今日は私と一緒にしゃるうぃーらんち?」
「出来ぬ英語など口にするな」
「今日も冷たいってかおっさんくさ。なんでもいいけど約束ね拒否したら私に大岩井いちご牛乳1週間分献上」
「身勝手な」
「だって裕香ちゃん休みだし他の子達も委員会とかでいないんだよー私ほら帰宅部で委員会にも入ってないフリーな人間だからさ」
「俺も委員会がある」
「げ、まじ?あ、そっか真田先生の下僕委員会委員長だもんねそうでしたそら失礼した」

悪気も無く頭を下げると目をカッと見開いた真田が襲い掛からんとばかりに手を振り上げたので弁当を片手に全力で教室を飛び出した。ひとりで弁当なんて事になるくらいなら早弁でもして図書室にでもいれば良かったかなと思った昼休み、人気の無さそうな非常階段に足を運んでひとり弁当を広げようとしたら真上からぐううううっと盛大に腹の虫が鳴く音が聞こえてきた。なんて恥ずかしい奴なんだ写メでも撮って風邪で暇しているであろう裕香ちゃんに送るつもりでポケットから最新式の携帯電話(替えたばかりのぴかぴか)を取り出し携帯の画面越しにその相手を撮したところで私は自分の最大の失態に気付いた。そこにいるのが噂の変人テニス部レギュラーのひとり、赤髪のガム不良だったからだ。慌てて携帯を閉じ何事もなかったかのように弁当に目を向けると不意に赤髪が私の視界の端をかすった。嫌な予感は当たり、続く。顔をあげると物欲しそうにしている赤髪と私は、ばっちり目があってしまった

「な、んすか」
「お前A組の名字だろぃ」
「なんで知ってるんですかってか貴方もまさかストーカー予備軍?」
「は?」

初対面相手に随分と失礼な事を言ったなとは我ながら思うし反省もするが本当の事だから仕方がない。そうでなければ自己紹介もしていない私の名を彼が知る由も無いのだから。私は真田達のように知名度も無ければ柳蓮二のように成績優秀なわけでもない。つまりどこにでも蔓延ってそうな一般生徒の名前を知っているだなんてストーカーだとしか思えないと頭の中だけで考えたつもりだったのだけれどどうやら口に出していたらしい。暫くの沈黙の後赤髪の不良はがははと豪快に笑い出した。おっと目の前の不良もどうやら相当失礼らしい。そんなに笑っていると柳蓮二にけちょんけちょんにされるぞ、とは言わなかった。柳蓮二同様恐いからに決まってる。障らぬなんちゃらに祟り無しというやつである

「柳の事そんな風に呼んでんのかよお前!」
「まあ、ってかそれより私の名前どうやって調べたんですか?」
「その柳蓮二から聞いたんだよぃ」

柳?柳蓮二から聞いたと今目の前で変な色のガムを膨らます不良は言ったのだろうか。こんな不良の凡例のような生徒とも仲が良いとは柳蓮二侮り難し。しかし知り合った経緯くらい聞いても文句は言われないだろう。とりあえず食べる物くれと言われた赤髪に食べようとしていた弁当を差し出すと物凄く上機嫌になったのでそれを良いことに柳生から奪った焼きそばパンを片手に赤髪の不良に尋ねてみることにした

「柳と俺?なんだお前知らないのかよぃ、俺ら同じテニス部だぜ」
「へえーってか柳蓮二テニスしてんの?写真部的なのかと思ってた」
「お前、真田からなんも聞いてないのか?」
「真田がテニスする事自体私はまだ認めてないからなあのおっさん」
「お前、言うよなぁ」

あっという間に私の持ってきた弁当を平らげまたくちゃくちゃとガムを噛み始める赤髪を横目にお腹に溜まらない焼きそばパンを胃に入れた。なんだか食べた気がしないのはきっと私が未だにこの赤髪に恐怖心を抱いているから。というか本当に不良とか無理。しかし存外、不良の方はだいぶ私に慣れてきたらしくぺらぺらと自分の身の上話を始めていた。テニス部の事自分の兄弟の事クラスの事、そして、転校生の事。転校生はどうやらテニス部でも若干浮いているらしい。ならどうして入部を許可したのかと聞いたらどうやら学校側からそう言われたのだとか。なんだか相当な権力を持しているらしい転校生ちゃんの実態はまだ霧に包まれているというわけか

「てかさ、散々話した後で悪いんだけど、あんた名前なんていうの?」
「俺?なんだ知らないのかよぃ」
「いや知らないでしょ自意識過剰集団テニス部なんて真田と柳生でお腹いっぱい」
「ふうん、俺は丸井ブン太」
「へえブタくんね可愛い名前」
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