謳歌 | ナノ

「名字、何故そんなところでしゃがんでいる」
「あっ、ちょっと腹痛が」
「なら無理をせず保健室へ行け」
「だからさ、分かってて言ってるんだよねそれ?今春休みだし大体学校なんて行かないから」

春休み終盤、学校から近いところにある友達の家に私は泊まりに来ていた。比較的仲の良い5人で集まっては下らない事ばかりするのがお決まりで、今回は人生ゲームで負けてしまった私がスーパーに出掛ける事になった。ぱしりでもなんでも呼んでくれたまえ。しかしそこで事件は起きた。ジャージ姿でスーパーにアイスを買いに行くところを真田と柳生に見つかってしまったのだ。別に常日頃から学校ではすっぴんなわけだしジャージだって学校指定ジャージでも着てしまえばなんら変わりはない。しかし特別仲の良いわけではないクラスメートと校外で鉢合わせるというのはなかなかキツいものがあるということをどうか理解して欲しい。部活が終わったのだろうかなんとなく廊下ですれちがったような男子もいれば全く見たこともない男子を引き連れスーパーにいるテニス部を遠くで発見し、私は即座にその場にしゃがみこむを選択。なるべく見つかりたくはないという思いがそうさせたのだが、残念な事に見つかってしまった。諦めて立ち上がるとやはり私がちゃんと知っているのは真田と柳生くらいなもので、その髪校則違反だよね?っていうモロ不良のような生徒には一瞬だけしか目を向けなかった。最悪だ

「おや、名字さんの学区はここではない筈ですが」
「え、あうん。友達の家に泊まりに来てんだよね」
「む、お前の行動ひとつが我が立海に多大な影響を及ぼすことを肝に命じて過ごせ」
「友達と遊ぶくらいでなんで戦争で自分の立場の重大さを再確認しろくらいの事言われる必要があるのか分かんないけど了解。やっぱ真田って変だよね」

もうそんな風に考え始めて2年経つがうちの学校のテニス部は大概頭がおかしい。これを個性と呼んでしまうのであればそうなのかもしれないけれど、それだけじゃ片付けられないような択一したものがある。まあこれだけの人数を誇る学校なのだからそのくらいの人間は腐る程いると思うのだけど。そういえばテニス部マネージャーの子が1年の時新入生人間技じゃないテニスするからグロテスク的な事を言いながら溜め息をついていたような気がする。やっぱり変な集団なんだと再確認した頃、そのテニス部の集団のそのまた先に他のクラスのギャル集団の姿を確認した。名前と顔を知っていて且つ見知っているのはひとりしかおらずそれ以外は面識の無いギャル集団。入学した時は数学の成績トップや体育推薦だったというその集団は校内では結構有名で、勿論私も名前くらいは知っている。歩いているだけで相当目立つのだ、知らない者は恐らくいない。私はそういうのには縁が無い(知っているという子はあんな風貌になってしまう前に知り合った)ので絡まれたら本当にやばい。

「お?あれ実佳達じゃね?」
「間違いないのう。今日も派手な奴らじゃ」

ガムをくちゃくちゃ噛んでいた赤い髪の不良と銀髪の長髪が他のテニス部の視線を引いてそのギャル集団を向いてくれたのが助かった。聞こえるか聞こえないかくらいの声でじゃあ、と呟き私は早々にその場から離れた。スーパーといえどもチェーン店。うまく避けれれば会うこと無く帰ることも可能。なんの戸惑いもなく彼らから離れ少し時間は掛かったけれど予定通りお目当てのアイスコーナーまで辿り着いた私は人数分のアイスを適当にかごに入れ反対方向のレジへと足を進めた。暖かい部屋で食べるアイスって最高。もうすぐ春とは言えまだまだ寒い外の事を思って身震いしながら空いているレジ台にかごを乗せた

「全部で786円だ」
「げっ」

小銭入れをポケットから取り出し500円玉を二枚レジの計算台に乗せようかと手を伸ばすと背後から声が聞こえた。聞き覚えのある声に顔だけを後ろに向けると見たことのある、しかし決して知り合いではない人物が私の買うかごの中身をじいと凝視していたので思わず声を上げてしまった。まじで怖いからやめてくださいというのは恐かったので心の中にそっとしまった

「名字はシャーベット系統のものよりバニラ系のものを好む」
「ま、まあ…今夏じゃないし…ってかあなた、誰ですか?」

どこから取り出したのかA4のノートにガリガリと何かを書き出すあの時生徒手帳を拾ってくれた長身細身で目の細い男子生徒、と毎回そう呼ぶのも頭で考えるのも面倒くさい。それならばと名前を聞いたらペンの走る音はぴたりと止まり男子生徒は面食らったような顔をしながらこちらに視線を向けた。私何か不味いこと言いましたっけ。そんな事より早く帰りたい
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テーマ「人外ファンタジー」
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