謳歌 | ナノ

「ねえ名字さん、貴方もこっちでやりたい事があるんでしょう?」
「え?やりたいこと?まあとりあえず卒業して大学には行きたいけど」
「そうやって取り繕ったって、夢華の事は誤魔化せないんだから。どんなお願いしたのか知らないけど、皆皆、夢華のもの。邪魔はさせない」
「…え、ああ…はい?」
「今にあんたなんか、ひとりぼっちにしてやる」



「…雨宮さん、名前夢華っていうのか」
「名前ブツブツうるさいナリ」
「お前こそうるせえしってか何でここにいんの」
「自主休憩?」
「そんな創作用語は通じません」

昨日の放課後雨宮さんに意味の分からない事を言われた私はなんとなく心に残った変な蟠りのせいで授業に参加する気になれなかった。保健室にでも顔を出して適当に具合が悪いと寝ていようかとも考えたのだけれどそれでは本当に具合の悪い人が来たとき罪悪感でどうにかなってしまうと思ったので仕方無く屋上に場所を移した。私にだって罪悪感のひとつや二つあるに決まっている。しかしよく晴れた空を眺めながら昨日の出来事を振り返っている途中聞こえてきた聞きたくもなかった声に罪悪感を打ち消してでも保健室に行けば良かったかと激しく後悔した。ゆっくりと振り向いた先にいるのは給水タンクなんて埃で汚い筈の場所から私を見下ろす、昨日雨宮さんとの間で話題になったテニス部のひとり仁王がいた。当たり前に考えてコレはサボりだが私も同じなのでそこは否定せず、今更授業に出ろなんて優等生じみた事を言う気も無かったので再びフェンス越しに広がる学校の敷地と地とは決して交わらないくせに並行してそこに存在する空を見た。空は地と並行に存在する、なんて今まで当たり前すぎて考えた事もなかったなと染みじみその境界線を追っていると給水タンクの方から声が聞こえてきた。いつの間にか、声は近くなってきている

「のう、名前」
「何?空と地は並行に存在してるんだよ」
「何哲学染みた事言っとるんじゃお前さんらしくもない。それよか昨日、雨宮と何を話しとったんじゃ?」

そして私が再び振り向いた時に仁王は私の直ぐ隣で同じように空を見ていた。私と違う点と言えばそれは恐らく、彼は私よりもずっとずっと前からこの空を見ていたという事くらいだ

「…見てたの?」
「いんや、柳が言うとった」
「ならなんの話してたか分かるんじゃないの聞かなくても」
「柳のはあくまで推測じゃき、真意は当事者にしか分からんっちゅー事じゃよ」

その柳の推測がこれまでに外れた事があっただろうか。そう空を見上げながら欠伸する銀髪に尋ねるも答えを得ることは出来なかった。柳はその現場を見ていたのだろうかそれとも誰か人伝いに聞いたのだろうか。しかし彼に至っては人を伝ってでも聞けないような情報を持しているためあの場にいたと断定する事は出来ないだろう。しかし断定出来なかったとしても恐らく私が彼女に何を言われたのか柳は分かっている筈。これを受けて柳が雨宮さんをどう見なすのか、私はなんとなく気になった。どうでもいい話をすると、ひとりぼっちにしてやるなんて宣戦布告をするような小二病患者がこの時世に存在するのだなと思うと少しだけ面白かった。それにしたって、彼女の言った「お願い事」とはなんの事なのか私が疑問を持つ頃には授業終了を告げる鐘と共に私がサボった事を知った真田がカンカンに怒りながら屋上に迎えに来ていた
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