謳歌 | ナノ

所詮ドラマはドラマ、漫画は漫画だと世界の住み別けはしなくてはいけない。ひょんな事から、なんていう奇跡が起きる確率は万が一にも無い訳だしそれを信じている人だって心の中ではそれが叶わないと分かっている。結局のところこの世界を生きる人間は皆、少なくとも所謂一般人は皆、現実の存在を認めながら生きている。それは私も同じで、これから変わる事も無いだろう。そんなものは、存在しないのだから。

「名字」
「どうした、真田くんよ」
「今週からお前と俺が週番だろう、職員室へ行くぞ」
「へーい」

私の名前は名字名前、立海大付属に通う2年で一般人。今私の貴重な朝の睡眠時間を奪って連行しようとしているのが同じ2年A組、真田弦一郎は隣の席でテニス部所属。うちの学校のテニス部は全国区で常連校、しかも彼は2年なのにその中枢を担う人物のひとりなものだから、まあそこそこに知名度はある人物だ。学校の表彰式で見たことくらいはあるだろう。でも残念ながら神奈川ではマンモス校代表と言えるくらいの人数を誇る学校だ、知らないひとはいるかもしれない。現に私も、彼と同じクラスになる前は彼の存在というかテニス部が強いなんて事も知らなかった。うちのクラスにテニス部はふたり、ひとりは彼でもうひとりは柳生という昨年生徒会長になった眼鏡を掛けた男子で静かだけど優しい。

季節は冬、3年生が自宅学習期間に突入し事実上最高学年になった私達ではあるが特にこれといって変化があるわけではない。ただ暗黙のルールで食堂を優先的に使えるとかネクタイを短くしてもいいとか少し改造してもいいとか、そんなものがあるくらいで殆どの者がなんの自覚も持たずにいる。勿論理由のひとつにはこの学校が元々エスカレーター式でよっぽど問題が無い限りはこのまま大学まで進学する事が出来るためだ。卒業しようがまたその先で会える。大学を卒業しない限り終わらないループがある為に私達も、或いは先生達さえ学年というくくりに気を遣らない。

「失礼しまーす」
「語尾を伸ばすな」
「別に語尾じゃないし、そしたら失礼しますーになるじゃん」
「あげ足を取るな」
「はいはい分かりましたよセンセー日誌取りに来ましたー」

二年間も行き来を続ければ嫌が応でも慣れてしまうドアを開け到着したばかりなのか些か慌てた様子でコートを脱いでいた担任の先生の机の上から日誌とホームルームで配るのであろうプリントの束を手に取り職員室の中央に置いてある大きなホワイトボードから授業変更と委員会の予定を持ってきたメモ用紙に書き出す。来週はいよいよ卒業式らしく予行練習の日程が3時間目4時間目を占領しているのに溜め息ひとつ、荷物を配布物を片手にとっくに職員室を出ていった真田を追い掛け私も職員室を後にした

「卒業式の練習とかだるくね?」
「本当だよね、すっごいだるい。どうせ生徒会とかがなんか言って延々と祝辞聞いて終わるんでしょ?」
「1年の時は良かったよねーだって参加しなくていいんだし」
「そういや今年の送る言葉的なの柳生がやるんでしょ?名前あんた知ってた?」
「うっわ何それ馬鹿堅い挨拶になりそー」
「名字さん、聞こえていますよ」
「げっいたんだ柳生!ごみんごみん」
「わざとすぎて笑える」

お腹が痛くなるまで笑って馬鹿な事言い合って、たまにしくじって先生に怒られてまた笑う。悲しい事とかもあるけど皆同じように進む。それが所謂青春というやつで思い出になる一欠片。恋なんて甘酸っぱい事しても楽しいのだろうけど私には程遠いのかもしれない。ただこうして馬鹿やれる今の生活を私は、最高に楽しんでいる
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テーマ「人外ファンタジー」
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