謳歌 | ナノ

「ちょ、やばい私まで不良だと思われるんでパス帰るパス」
「大丈夫じゃけ一緒に行くナリ」
「うっせーよチャラ男お前が一番不良だっつの帰らせろまじで」
「あれ、名字さん帰っちゃうの?」
「まっさかーそんな事あるわけないじゃないですか幸村さんてばイジワル!こんなの冗談ですよ、ねえ臭うくん」
「俺は臭うじゃのうて仁王ナリ」
「うっせーお前の名前とかまじどうでもいいから」

私は今、某サイゾリアの前で駄々をこねている。原因は言わずもがな今まさにそのサイゾリアに入店しようとしている立海テニス部のレギュラーメンバーさん達一部。しかし幸村に勝てる筈もなく、名前を忘れていたという重い罪もあるせいで私は銀髪と丸井に引きずられるように中に入った。サイゾリアのようなファミレスといえば勿論ひとりくらいは同じ学校の生徒がバイトをしているというのが世の常のようなもので、今回も例の如く校内で顔を見た事ある生徒が接客に応じてくれた。私は顔を見たことがあるだけで全くの他人だったのだが一緒にいるのが変人集団の異名を持つテニス部。私達を席に案内し終えて早々キッチンに戻り同じバイトのひとにコソコソと私達の来店を伝えていた。バイト中にも関わらず携帯電話を取り出すところを見るに友人に連絡でも取っているのだろう。内容は大方、件名:テニス部サイゾ来たんだけど括弧笑い本文:うちの学校のテニス部バイト先に来店なう括弧笑い。てか女子いるんだけど多分A組のひとだよ仲良いとか意外すぎるう括弧笑い。と言ったところだろうか。まああくまで推測に過ぎないがあながち間違いでは無いだろう。私が発言する前に柳が代わりに皆に似たような事を言っていた。噂になるの面倒だなと思いつつもまあどうでもいいと諦めの入っている私は仕方無しにメニューを開いた

「ところでさ、蓮二はもう誤解解いたの?」
「ああ、問題無い」
「何なになんかあったの?」

結局皆でドリアだのピザだのポテトだのを注文しそれぞれに食事を始めたところで唐突に幸村が口を開いた。誤解、なんてスキャンダルの予感だったので柳の反応を待って食らいついたら正面に座っていた丸井が信じられないと言わんばかりの表情でこちらを向いた。信じられないのはお前の顔だよと激しく言い返したかったのだけれど同じ事を思っていたのはその横の仁王も同じだったらしい。この世の終わりのお知らせを聞いたような顔で私を凝視する姿になんだか私だけ置いていかれてる気がしたのが気に食わなくて隣で黙々とハンバーグをぶっ込む真田の脇に肘打ちしたら頭に雷が落ちた。女性への暴力反対。大反対。てか女子には手をあげないって柳生は言ってたけど私手、あげられまくってるよ?これまでに細胞何万個も真田のせいで殺してきたよ?

「ちょっと真田、なにこの私だけはぶられてる感じ。お前も一緒にはぶられろ」
「おいおいそこかよぃ。お前、誤解っつったら雨宮の事に決まってんだろ」
「は?雨宮さん?ああ、もしかして柳と付き合ってるってやつ?まじ面白いよね私ソッコー友達にメールしたもん」
「だから、違うと言っただろう、今朝」
「冗談だって、分かってるよ。でもさ、雨宮さんて本当不思議。私含めうちのクラスの女子はまじ無理なんだけど、何か日々クラスの男子と仲良くなってんだよね」

私はふと、そこで持っていたスプーンを置いて真剣に考えた。確かに、女子と仲良くするより男子と仲良くしてた方が楽ーなんていう女子もいるのだけれどそんな子にだって女子の友達は当たり前にいるのが普通で、そんな事言いながら男子としかつるまないのは男好きだなんて言われ、つるんでいる男子も裏ではその女子の真意を見抜いて呆れているものなのだけど、今回はそんな感じもしない。ましてやクラスの女子と仲良くなれないからという同情でも無さそうなのだ。むしろあんな女子達と絡んで無いで俺達といようぜだって雨宮が一番美人。みたいな雰囲気がある。真田や柳生は知らないがクラスは今そんな感じなのだ。雨宮さんの周りにはいつも、謎が渦巻いている。それから冷めてしまったポテトを10本無理矢理幸村の手によって口にぶちこまれるまで、私は延々とそれだけを考えた
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