謳歌 | ナノ

「名字、蓮二が「え?何?今土曜の話してるからちょっと待って真田。それでさーその後柳がね」
「名字、少し良いか?」
「なんだよ本人様のおでまし?ちょっと行ってくるわ続きはその後ねー」

けらけらと笑みを浮かべる友人達を背に私をドアの外から呼ぶ男、丁度私達の話のネタになっていた柳の元へぺたりぺたりと上靴のかかとを鳴らしながら登校してくる生徒達でごった返す廊下に顔を出すと、他の挨拶等を済ます前にとりあえず深い溜め息を吐かれた。溜め息の理由なんて超能力者でなくとも大体予想はつく。きっと土曜の弁解をしにきたのだ。その証拠に手元になになら小袋を抱えている。今日は柳の誕生日でもバレンタインでも無いわけだから誰からか突発にプレゼントでも受け取らない限り持つ事のないような包装のされたその袋が示すのは謝罪。柳と知り合ってから観察力がついた事は認めるしその点では物凄く感謝しなくもないが、土曜の件で何か謝罪しなければいけない事があったのか、全く思い当たる節が無い。あの日はあの後、雨宮さんが私達の前に柳と腕を組んで登場した後これまたわざとらしくあっ、なんて言いながらぱっと距離を取り柳に笑い掛けていたのでこれは面白いことになったと呆気に取られている他のテニス部の皆さんを尻目に携帯カメラで二人の様子を撮影し友達に一斉送信しただけ。本当は帰宅まで後をつけたかったのだけれどあからさまな事は出来ないし明らかに雨宮さんが分かりやすく私を睨んでいたので持っていたノートを柳に渡し早々に帰宅したのだ。柳が何やら私に言いたそうにしていたのだがそんな事はどうでも良い。どんな昼ドラよりも昼ドラ染みた展開、いやどちらかというと水曜9時のドラマか。なんて笑いながら帰宅し、いつも通り日曜を満喫私はいつも通り登校した。私は楽しいものを見たのだからむしろお礼を言いたいくらいなのに。そう考えるともしかしたらその手にある包みは雨宮さんへのプレゼントなんじゃないかという気になってきた

「あ、ごめん雨宮さんならまだ登校してないっぽいよ」
「雨宮に用は無い」
「あら冷たい!あんなに仲良さそうにしてたのにそれは酷いんじゃない?」
「酷いのはお前だろう、名字」

ぴしゃりと否定する柳の反応に、大袈裟におどけたような反応を見せると眉を寄せながら柳はそう苦々しく口を開いた。酷い?私が?確かにあの場で爆笑した上写真撮影してネタにするのは多少おいたが過ぎると朝から真田に説教を食らったが真田は女子高生の青春を知らない。そういうスキャンダルの端くれが私達の話題に花を咲かせ少しの実をつけて他所へと飛ばす。そうして話を拡散させて75日、約3ヶ月程経つ頃にはすっかり消えて無くなる。それを三年間繰り返して卒業する頃に思い出してあんなことがあったと思い出し笑い合い、良い思い出だなんて言葉で片付けるために私達は日々楽しい事を探す。その話題の種になってしまった柳には少しだけ、ほんの少しだけ申し訳ないと思わない事も無い。だがそこまで計算しているのではないだろうか?だって柳は何せ超能力者。それなのにそんなに悲しい顔をする理由が、思い当たらない

「あ、写真、消そうか?まあプライバシーあるし…今なら友達に言えば間に合うかも」
「写真はとりあえず消してくれると有り難いがその事では無い」
「え違うの?じゃあ、うーん…あまりにも唐突に誕生したカップルが似合わなさすぎたせいで爆笑しちゃってごめんなさい?」
「そんな事を頭の中で思っていたのか」
「まあ、お互いが好きならいいんだけどさ、うちのクラスで雨宮さん評判相当悪いし私もそんなに好きじゃないから応援してるねとは言えないわすまん」
「先程から、やはりお前は勘違いをしているようだから否定しておくが俺と雨宮は付き合っていない」

聞き間違えかもしれないからとあえて聞こえなかった振りをして聞き返すと全く同じ返答が返ってきた。そんな冗談、なんて笑い返すと何故先に帰ってしまったのだと咎められた。俺が呼んだのにろくに相手も出来ず帰らせてすまない、と謝りながら手に持っていた袋を私に差し出す柳の意図が分からず鳴り響くチャイムを気にも留めずその場で思考を停止させてしまった
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