謳歌 | ナノ

「うっす柳」
「珍しいなお前がこんなところにいるなんて」
「いや、そんな私の事知らないでしょうあなた」
「どうだろうな」
「こわっ」

用事があると言うクラスの子に頼まれ図書室に本を返しに来たら柳にばったりと遭遇してしまった。なんでこんなに柳は図書室が似合うのか分からないがなんとなくノートやデータというとこんな場所を連想させるからだとひとり納得した。今日は週末、私は花の金曜日にOL並みの喜びを感じている。今日という日を乗り切れば明日明後日は学校に行かなくても良い。早起きをする必要もないし好きな事をしていても文句は言われないから最高だと思うのはきっと誰でも同じだと思う。ただ少しいやだいぶ私の場合その振り幅が大きい。オンオフの切り替えーなんてプロっぽく言ってみるが実際そのくらい温度差がある。そういうわけで今の私はすごく機嫌が良い

「名字、そんなに学校が嫌いか?」
「いや?なんで」
「お前の機嫌が良いものだからな。それに明日は週末だろう」
「柳ってさ、本当になんでも言い当てるパワー持ってるよねそういうのってエスパーっていうんでしょ?」
「エスパーではなく推測だ。確率の計算の結果導き出した一番可能性の高いものを口にしている」
「へえ最近の超能力って凄いんだね」

柳の言葉を半分聞き流し司書の先生に言われた通り本を返却する。この本を返してきてと私に頼んできた子はとっても難しい本を読むらしく、私には到底理解出来ない。幾何学だかなんだか知らないが普通に最初いくなにがくと読んで真田にぶったたかれた。なんにせよ私の任務は完了した、というわけで残りの貴重な昼休みを有効活用するべくそそくさと図書室を後にしたらドアを出て直ぐのところに柳が立っていた。これが噂のストーキングか?なんて警戒しているとそれも柳にはバレバレなのかただ待っていただけだと言われた。柳と話しているといかに自分が馬鹿かという事を思い知らされるから苦痛で仕方がない。自分の発言の全てが奴の手の中だと思うと何かを話す気には到底なれなかった。流石変人集団と呼ばれるテニス部のひとりである。これでも女子には人気なのだと裕香ちゃんや他のクラスの子は言っていたが有り得ないだろう。そうクラスで発言すると皆だよねーと同意してくれた。うちのクラスの女子の頭は正常に働いている。転校生を除いたら、恐らくは

「時に名字」
「ん?」
「明日時間は作れ「絶対無理」
「まだ何をするかも言っていないだろう」
「明日は10時から好きなドラマの再放送あって忙しいんだよね」
「それは良かった、俺は午後からどうだ、と言うつもりだったのだが。話は最後まで聞くものだぞ」

ハメられた。私をこうやって陥れるための罠にまんまと引っ掛かってしまった。自分の愚かさに虚しさを覚えるが明日の私は確かに用事がない。出掛けたくないが本望中のそれだけれど外に出たくないなんて失礼な事を言うわけにもいかない。まあドラマ見るから忙しいも大概だとは思うけれど。しかし困った。このままでは最高の週末が最低の週末になってしまう。まだ何をするかは聞いていないがきっと私に利益のある事では無いだろう。なんとかして断る方法はないかと唸った挙げ句私はある言い訳を思い付いた。これならば諦めてくれるだろう

「私明日午後から女テニ見に行く約束してるんだよね、ほら明日練習試合あるとか言ってたから」

どうだ、これならどうにもなるまい。確か今朝裕香ちゃんがそんな事を言っていた。練習試合を兼ねての合同練習が東京の高校とあるらしい。楽しそうだねと言うとあの学校とはやりたくなかったのにと項垂れる一方でそれ以外のクラスの子達はじゃあなんちゃらが来るの?見に行こうかなーなんて言っていたから覚えている。高校生なのにテニス部でもない生徒にまで及ぶ知名度を誇るプレーヤーが来るなんて、石川亮か、なんて思ってしまった私を許してください。しかし効果は適面、私の教室の前まで来るとぱたりと足を止め動かなくなった柳を背にじゃあ、と軽く手をあげて見せる。勝った。なんて内心浮かれながら教室のドアを開けようとしたところを、何者かに制止されてしまった。相手は言わずもがな

「それは好都合だ。俺達もその日練習試合があるのだが、是非その試合をと思っていたのだが丁度良かった。時間やコートは追って連絡をするから連絡先を此処に書いてくれ」

完 敗
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