短編tns | ナノ


過去  


私は柳の事が好きだった。中学の時同じクラスになった柳はテニスがとても上手で、入学当時からそれ以外の真田、幸村と三人立海のビッグ3なんていう別名をつけられる程の実力を持った彼は、私からしたら雲の上の人物できらきらといつも輝いていた。そんな彼のテニスをする姿が、その当時の私の見てきた世界の中で一番輝いていたのだ。彼の隣に立ちたい。そんな事を幼いながら私は強く思っていた。隣に立つためなら、どんな努力だってすると私はあの時誓ったのだ。思えば、私が他の人間の出来ないような事をしてやろうと思い始めたのは柳との出会いがきっかけだったのかもしれない。私はどうすれば彼の隣に立てるのか必死に考えた。そして出来なかった勉強も始めた。そのために大好きだった習い事や部活を全てやめた。習い事、所謂スポーツや芸術には残念ながらどんなに頑張っても身に付くことのないセンスというものが少なからず存在したし、私にはそれが無いことを承知していたからだ。だから私は名残惜しいという気持ちを捨てひたすらに勉強に励んだ。きっと良い成績を取ったら、彼は私に関心を示してくれるのではないかと思ったのだ。案の定、中間テストで1位になった後、私は柳に初めて声をかけられた。予想の上を行ったと、彼は私に言ったときの仄かに嬉しそうな表情が、今でも私の脳裏に焼き付いて消えてくれないのが本当に、本当ににくったらしくて仕方がない。

私はそれからも勉強して、勉強して、少しずつ柳とも距離を近づけることに成功した。純粋に嬉しかった。認められているのだという充足感が私を更なる高みへと連れていこうとしていたし、そのための努力ならば惜しむ必要もなかった。今一度考え直して見れば、もしかしたらあの頃の私達の関係を交際だと言っても過言では無かったかもしれない。お互いの時間を共有し、お互いの全てを見せ合った。そしていつの日か私は柳と共に名を連ねる事に対する喜びをより多く求めるようになった。初めの、彼の隣に立ちたい、即ち彼と恋人同士になりたいという感情は一変、彼といつで受け取ってはねとか?っていうね!でもどこまでも競い合う仲でありたいとも、願うようになっていった。それでも私の根本が変わることは無くて、彼の隣という大前提の下、ずっと柳と肩を並べてきた

〈名字〉
〈…?なに、っ〉

夕暮れの図書室で、突然触れ合った唇の感覚は今でもしっかりと覚えている。あの時、やっぱり私は柳が好きなのだと再確認した。彼とこのまま、出来ることならばずっと、共に在りたいと願っていた。

なのに、なのに……



「その薬指の彼女がいるくせに、何様?私はもう、あんたとは関係無い…っ!」

場内がしん、と静まり返った。それでもそんな事はお構い無しに私は席を立ちホールを出た。うしろから村田さんが私を引き留める声が聞こえたのだけれど、私には関係無かった

柳には、婚約者がいたのだ。当時から、ずっと。恐らくは今も

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