短編tns | ナノ


追加オプション  


女の子は本当に可愛い。顔の話をしているわけではない。女の子は顔の作りや体型等の見た目に関係無く本当に可愛い生き物だと信じて疑わないし実際にそうだと思っている。ぶりっこを気持ち悪いと軽蔑する人間もいるだろうがそれはそのひとが自分がどのようにすればかわいく見えるかを知っているというわけであり実際可愛いのなら問題は無い筈。高飛車だって世間一般で最近話題になっているつんでれとやらだと思えばなんとかなるのではないかと思う。故に私は女の子は基本的にそのものが可愛いと思うのだけれど。なら何でひとの可愛いかわいくないという価値観が生まれてしまうのか。簡単だ、生い立ちや性格、はたまた社会性や協調性などといった所謂オプション的要素が人間の個々に備わっているせいである。そしてそれは勿論、男も同じ

「あとべーやん、また告白?飽きないねあんたも」
「それじゃまるで俺が何度も告白を繰り返してる軽率な男みてえじゃねえか。アァン?しかもなんだそのふざけた呼び方」
「いえいえ滅相もない。またお断りしたのかしらねと」

当たり前のように隣の席に腰を下ろしひとの楽しい友人達との昼食時間を妨害してくるこの人間のクズは一応この学校の生徒会長。名前を跡部景吾とも言う。深く関わり合う事もなかったであろう雲の上の人物とまで崇められるこの男 が何故私の隣の席にどっかりと座り偉そうな口を利くようになったかといえば、簡単だ。なんの理由も無い、ただ前回の席替えでこんな席順になったというただそれだけである。初めにくじを引いた時は周りから羨望の目を向けられ換わってくれとせがまれたのだがあと一歩のところで跡部に見つかってしまい結局おじゃん。今に至るわけだが、正直この跡部という男がどれだけの人材なのか知りたいという気持ちもあった。周りが、否学校中が騒ぎ立て重宝しモテはやしている男を知れる叉と無いチャンス。どうせこれから関わり合う事も無かろうと興味本意で話し掛けたのが始まりだったのだが、どうやら私は跡部景吾という男を買い被っていたようだ。というのも、確かに金持ちで権力も指導力も実力も魅力もある事に間違いはないのだか、隣の席になって思うことは思いの外、彼も人間味を帯びているということ。雲の上なんて言うものだからスーパーサイヤ人みたいなのを想像していたのに、ただの我が儘で傲慢強欲な少しだけませた等身大の学生じゃあないか。彼の持っているオプションが周りよりも彼を際立たせているだけで、跡部景吾という人間自体は少し世間知らずな、それでも当たり前のように生きる一般人なのである。一般人、とは少し言い過ぎかもしれないがそうだと分かったらこれまでのイメージを一拭、なんだか途端に他のクラスメートと同じ目線になったような気がした。まあ、跡部が私をどう見ているかは知らないけれど

「毎度毎度、どいつもこいつもやれテニスだ家柄だ顔だと騒ぎやがる」
「おやそれはいい事じゃあないのかい。他の生徒に無いものを持ってるっていう証拠じゃないか」
「テメェ、他人事だと思って」
「これは失礼!でも角言う私もテニスの才能は愚か財も名声も無いからそこはなんとも」
「まるで俺からそれを取ったら何も無えみたいじゃねえの」

おや、どうやら今日の跡部は頭が良く回るらしい。柄にも無く溜め息をつくのを見るに恐らく告白してきた女子生徒にそれらしき事を言われたのだろう。モテるという事はそれだけ批判もあるのが世の常。持って生まれてしまった跡部に罪は無いがやはり他の一、生徒としてそれが羨ましく輝かしい魅力であるのもまた事実。それに魅了される女の子達にも罪は無い。外見しか見ていない、金にしか目がないと否定しようにも彼女達の魅力がそこにあるのならば一概に否定も出来まい。彼女達からすれば容姿や富よりも性格、所謂そのひとの人間性を見るという価値観は果てしなく愚かで馬鹿げているに違いない。まあそういう人間は同じ価値観を持った仲間内で付き合うなり結婚するなりするのが得策だと私は考えるのだけれど。天から二物も三物も与えられてしまった跡部を欲する女の子達の気持ちも分からなくもない。

「いいじゃないの。取ったらって、取らなきゃいいんだし」
「なんにもねえ俺を好きになる奴がいると思うか?」

もうすぐ次の授業が始まるというのにこちらを向いて頬杖をついたまま相変わらずぐちぐち言う跡部は頭がいかれてしまったのだろうか。今日はとことん女々しい路線でいきたいらしい。しかしどうも跡部が女々しくなればなるほど考えが男勝りになってしまう私からしてみればそれこそ溜め息ものだという事をこの男は知らない。

「いないね」
「なっ…」

溜め息混じりに首を振れば跡部はこりゃまた驚愕を絵にせんばかりに目を見開いた。何を驚いているのかはさっぱり分からないがどうやら彼は過信しているという事は手に取るように分かった。過信、とはまた違う表現かもしれないが何も無い自分を好きになってくれる人間がこの世に存在するかもしれないなんていう期待を抱いているに違いない。

いや、或いは自分を激しく卑下しているのかもしれないのだけれど

「何言ってんだかね跡部くんは。何も無い自分を好きになってくれるなんて、バカな希望も休み休み言いなよ」
「な、んだとテメェ…」
「いやいや何怒ってるの。その顔も性格も富も名声も、含めて跡部景吾なんでしょう?そうやって鼻で笑いながら女の子を蹴散らしたり所謂庶民の戯れとやらを知らなかったり、それでいてこの氷帝学園の生徒会長でテニス部の部長っていうのも含めて跡部景吾。ひとつ欠けたってそれは跡部景吾じゃないんだから文句言う事なんか無いだろうに。他のなんの能も無い一般生徒が可哀想で仕方がないね私含めて」

跡部と長々話す気になったのはこれが初めてかもしれない。跡部に何かを意見しようなんて気にはならなかったがいかんせん、跡部は知らなすぎる。確かに富や名声、美貌には果てがあるかもしれない。でもそれは誰もが平等にやってくる未来なわけで。つまりは訪れたらその時に考えれば良いだけの話なのだ。それにそれこそ跡部なんかは何かが欠けたら、なんて想像が出来るかもしれないけれどその何かさえ持っていない本当の意味での凡人だって世の中には腐る程いる。だけどその凡人達だって必死に生きて、誰かに出会って恋をして結婚をして、良くも悪くも人生をつくって死んでいく。怖がる必要なんてない、それは皆同じなのだから。むしろ他者よりも沢山のオプションをつけた跡部は自分を誇るべきだ。誰よりも選択肢があり誰よりも考える事が出来る。

変なところで果てしなくネガティブな隣の席の男子生徒を尻目に溜め息を吐くと、後頭部を思いきり殴られた。持っていかれたかと思ったよ一瞬

追加オプション

なら誰よりも何よりも選択肢のある俺様がテメェを選んでやるよと殴ったついでみたいにそんな砂糖より甘ったるい台詞を吐く馬鹿な隣の席の男子生徒が、たまらなくうざったい

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