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彼女の悩み  


中学の頃彼氏なんていたことがなくて、高校生の時初めて恋人という関係になれるひとに出会った。2年近く付き合ったのだけれど結局別れてしまってそれから高校を卒業するまで彼氏と呼べる存在の異性がいなかった。大学に入って1年目に私は再び新しい恋人に出会い、かれこれもう1年以上付き合っているのだけれど、彼と私の間には問題が沢山あった。頻繁に喧嘩もするしこじれる事が日常茶飯事。それでも別れるという単語がお互いの口から飛び出さないが為に、未だにぐだぐだと交際は続いている。彼氏の事が嫌いなわけではないしある程度の事なら許せる自信がある。しかしどうしても私が許せないのが、彼との

「はあ…」
「どうした名字、と聞きたいところだが。お前が交際相手の事で悩んでいる確率は97%」
「いっそ100%って言ってくれたほうが清々しいんだけど」
「そうか?しかし万が一という可能性を俺は否定しない」
「そーすか」
「今回は一体どんな些細な事で喧嘩したんだ?」

些細な事、その言葉に私は突っ伏していた顔を上げた。目の前にいるのは大学の同期である柳蓮二。中高の時はそれなりの知名度を誇っていたという柳は私と同じゼミに所属する2年生。私とは違って頭のよくきれる彼からの助言のお陰で私は付き合っている彼と別れずにここまで来たと言っても過言では無い程、入学当時から彼には世話になっている。そんな柳からの話を聞いてやろうと言わんばかりの問いに私はこの男ならと口を開くことにした

「…ほう」
「だからね、こればっかりはって感じなの」
「珍しいな」
「そうなのかな?結構いるっては聞くんだけど、周りの友達は皆好きっていうし」
「恋人とのセックスが、か?」
「うん。行為自体がっていうか恋人とって言ってるけど」

流石の柳をも困らせてしまったであろう私の悩み、それは彼氏との性行為である。私は元々セックスという行為がとっても嫌いなのだ。何が嫌なのかと問われればその全てだと悩まずに解答を上げることが出来る程私はその行為を嫌悪している。肌同士を合わせるのが嫌な訳では無いのだが、デリケートな部分を触られたりそれこそ結合したりなんていう行為は私の心を不快にするだけで一般的に言う快感とやらを味わった事がない。気持ち良いのではなくくすぐったくて、不快。それを勘違いされてずっと続けられた暁には相手に対する心が萎えてしまいそうにさえなった。一緒に眠る分には問題無いし抱き合って過ごす事に抵抗はない。ただ、どうしてもその行為自体に喜びを見出だせないのだ。話し終えた私がじい、と柳に視線をやると綺麗に婉曲した顎に手を当てうむ、と声をあげた

「お前が、恋人を好きではないから、ではないのか?」
「は?なんでそうなる?私行為自体が嫌いなんだけど」
「セックスには相性がある。それに名字、今の彼氏の前に誰かと体を重ねた事は」
「無いけど」
「ならばまだその行為自体が、とは言い切れないだろう。単に相手が下手くそなのかもしれないし相性が合わない可能性もある。そして一番高い可能性は、お前の気持ちがその相手に無いというものだ」

そんな事、無いと私の口が柳に反抗することは出来なかった。何故なら私は知っていたからだ、私の気持ちを。
付き合った当時から恋人の事を好きだったかといえばそうではなかったような気がする。なんとなくで相手からの告白を了承しそのまま交際がスタート。それから別れる事なく今まで順調に来ているようにも見えるが冒頭で説明した通り私は事ある毎に恋人と喧嘩をしては仲直り、という名の休戦を繰り返している。原因は柳の言うように本当に些細な事ばかりなのだが私や恋人はそれが許せなくていちいち声を荒らげて自らの意見を主張する。ある時期には相手をどうすれば喜ばせる事が出来るかではなく、どうすれば相手を怒らせないかだけを考えていた。それでも別れないのはきっと相手に少なからず依存心を抱いているからで離れてしまった先の事が考えられないから。答えは疾うに、出ているのだ

「柳さ、遠回しに私らに別れろって言ってんの?」
「どうだろうな」
「私が恋人と別れるの怖いっていうの知ってて言ってる?」
「お前が恐れているのは自分を一番に考えてくれる者の消失だろう」
「一人が嫌いなの」
「しかし名字の事を一番に思っているのがお前の恋人だけとは限らない」
「は?」

柳の言葉が分からなかった。ただ理解出来たのは、視界が柳でいだぱいだったということ

彼女の悩み

俺を相手に一度試して見るか、なんて真顔で言う糸目の彼から逃れられそうにはない

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