short | ナノ

 

頭が痛くて目が覚めた。暗がりでベッドの横にあるランプの近くを探してもいつもそこにある筈の錠剤がこの手に触れることは無くただ溜め息をついた。仕方なく手にした携帯の画面に表示された時刻は午前2時半。いつも夜更かしばかりしている相方は恐らく今しがた眠ったばかりなのであろう、仰向けに横たわり目を瞑って規則正しく寝息を立てているのが雰囲気で感じ取れた。今電気をつければ間違い無く相方は起きてしまう。だからせめて携帯の明かりで、と携帯のディスプレイをランプの脚付近に向けようとした時だった

「貴様、何をしている」

「あ、ごめん起こしちゃった?」

「悪気があって言っているのか?その携帯を今すぐに消せ」

「だって薬探してるの」

案の定相方が目を覚ましてしまった。暗がりにぼうっと浮かぶ顔つきは雰囲気だけで不機嫌だと分かったものの激しく痛む頭部を一刻も早くなんとかしたくて言葉ひとつ再び携帯のライトを頼りにランプの足許に手を伸ばす。あたしの偏頭痛の程度は生半可なものではないのだ。一度痛み出すと医者から処方してもらった薬を飲むまでは治まらない。なんとも不自由な体に生まれついたのだと自分を恨んだのは5年以上前で、発祥した時は本当に悩んだものだったが今では良く付き合っている方だと思っている。

端の方に追いやられた薬の詰まったケースを発見しそれに手を伸ばした時だった

「また、痛むのか」

大きなため息が聞こえてきたかと思いきやもそもそと相方がベッドを抜け出したらしい、突然風が抜けるような寒さに襲われたかと思いきや今度は頭上から声が降ってきた。見上げるとペットボトルの水を差し出す相方が気むずかしそうな顔をしながら立っていた。何故表情が分かったかと言うと、単純にあたしが携帯のライトを相方に向けたからである。携帯のライトを消し薬の入ったケースの横に置いた代わりにペットボトルを受けとりキャップを外して二粒の錠剤と共に口の中に放り込む。この2粒の小さな塊にあたしの身体が救われているのだから面白いとも思うが、あたしはこれがないと恐らく生きてはいけない。

「もういいのか」

「うん、ありがとう三成。お陰で助かった。」

「助かったのは薬に、だろう」

「いやいや、水持ってきてくれたしね。それに寝たばっかりだったんでしょ?ごめんね、起こしちゃって」

いつのまにかベッドへと戻り上半身をベッドの背にもたれるように座りながらあたしの事をじいと見やる相方には本当に申し訳ないと思っている。こんなあたしのせいで夜もろくに眠れないようじゃいつか絶対に体を壊してしまう。

「フン、今に始まった事では無い」

「でも、大変でしょ?」

具合が悪い時ひとは弱くなる、なんていうがあながち間違いではないらしい。なんだか相方にとんでもなく悪い事をしている気分になって、凄く申し訳の無い気分になる。あたしの言葉の意味を察したのか、相方はまたひとつ、大きな溜め息をついた。

「ごめん…」

「貴様は本当に…」

相方の気分をこれ以上害してしまわぬよう、布団に潜って朝を待とうかと体勢を崩しかけた時だ、突然がっちりと頭部をその大きな手のひらで掴まれ少しの痛みを感じた直ぐ後、わしゃわしゃと思いきり頭を掻き乱された。相方の手はいつも冷たい。冷え性なのかなんなのかは知らないが寝起きでも少し経てば直ぐに手が冷たくなってしまうのだが今は頭皮から伝わるその冷たさが異様なくらい心地好い。

「名前、私は貴様と共にいると誓った。私はこの程度で貴様を裏切ったりはしない」

「でも…」

「でも、ではない馬鹿者。ならば貴様は私が貴様と同じ状況にあった時睡眠妨害だと私を裏切るのか?」

「し、ないよ!」

「私も同じだ」

暖かくない相方の温かい言葉ひとつで、あたしの中に残る小さな痛みも吹っ飛んでしまう。もしかしたらいつかは、薬なんかに頼らなくても相方がいれば偏頭痛も治まるかも、なんて邪念を抱いてしまった。あたしの表情の変化に目を細める相方に気付かれないよう相方の腕を思いきり引いて布団に引きずり込んだ。

今日くらいは久しぶりに、抱き合って眠ろうじゃないの