short | ナノ

 

長編になる予定だったボツ作

少し都会から外れた奥地にそびえる私立豊臣大学。その膨大な広さを誇る大学の建物のひとつ、21世紀会館の三階321号室を拠点として活動しているのが大学内で良くも悪くも噂の尽きない

探偵サークルoblivion

初めは格好良い名前があったのだが大学からその存在を忘れ去られている、助けを求める知る人のみが訪ねてくるサークル故にいつからかこのサークルの名前自体がoblivionになったのだ

Oblivion:(世間から)忘れ去られた、記憶の出来ない


「あー!石田あたしのパン食べたでしょ!」

「貴様ほざくのもいい加減にしろ!誰があんな見るからに健康に悪そうなものを食べるか!」

あたしの名前は苗字名前。この大学の行政学科に通う二年生でこのサークルリーダーを務めている。そして今しがたあたしの頭を思いきり殴り付けてきたのが石田三成と言って同じ学年同じ学科のこいつとはもう10年くらいの腐れ縁。あたしたちはこの度、学校長である豊臣秀吉そのひとからある命を受けてこのサークルに入部した。その命とは勿論このサークル、oblivionの復興である。竹中教授がこの大学にいた頃賑わっていたこのサークルはいつの間にか忘れ去られ、廃れてしまったという。しかしoblivionで活動していた1学生として是非復興に協力して欲しいと連絡があったのがついこの間。一年の終わりの頃の事だった。命じられたのはあたしと石田のふたり。だけどきっと足りないからと人員追加を認められあたしが独断と偏見でもうひとり、とある人物に入ってもらったのもそのすぐ後の事

「三成、名前のものを勝手に食べるのはよくないぞ。ワシだって食べたかったんだ」

「え徳川?聞こえなかったんだけど、え?徳川?自分で買ってこいよ、ねえ?徳川」

「いいいえええやあああすうううう!!貴様根も葉も無いような嘘を!そこに直れ!!」

若干発言が変態ちっくな徳川家康は体育学科の二年生。何故か彼とも10年の仲になり、特に何を仕掛けたわけでもなかったが大学まで一緒になってしまった。徳川と石田の中は最悪だがとりあえず顔見知りで幼馴染みに変わりはない。加えて大学の同期なのだから同じサークルに入れても問題は無いだろうとあたしが引き入れた。石田は初めこそ天地をひっくり返す程の怒りを見せたが今ではすっかり仲良くなった、と、あたしは信じて疑わない。疑ってやらない。とにかくこのメンバーが現時点での探偵サークルoblivion正式メンバーでありこれまでの、そしてこれからの難題に立ち向かう勇者たちなのである。

…………
………
……

「…っていう宣伝なんだけど、今年の新入生向けに出したらいけそうじゃない?」

季節は春。新入学生観入の季節。即ち宣伝の季節!!というわけであたしたちは今例のごとく321号室に集合し会議を開いているのだ。編集され出来立てほやほやの動画を部屋に設置された旧式のテレビで確認しながら大好きなアプリコットジャムパンを食べていると、顔面スレスレを何かが物凄いスピードで通過していった

「貴様!最近顔を出さないと思いきやこんなふざけた動画を作っていたのか!ここに直れえええ!私が残滅してやる!!」

「えええー折角の復興試案!」

「ワシは気に入ったぞ!」

「貴様は黙っていろ家康!そして死ね!!!」

3人しかいない321号室はいつも物凄くうるさい。お陰さまで三階に拠点を置くサークルはあたしたちと変な宗教サークルのふたつだけ。助かっているといっちゃあそうなのかもしれないが、隔離されている感じが否めないのはどうしてだろうか。そして特に依頼もなく殆どの時間をこうしてどうでもいいことに費やすのも、探偵サークルoblivion。正直依頼なんて今まで何件来ただろうか。猫を探してください、なくなった靴を探してください、テスト勉強手伝ってください。こんな依頼ばかりなのだから廃れるのは当たり前かと思ってしまうこの心持ちを分かって欲しい。サークル活動を始めて2ヶ月。"本来"の依頼を受けた事はそのうちたったの一回切り。まあ正直その依頼が何件も何件も来たらそれこそ問題なのだから、いいことだとも思うけれど。それでも一件というのは、まあ、なんというか、復興の兆しが見えないような、いや見えるようなそんな感じだ

「死ね!家康!しね!」

「はは、中二病のように同じ言葉ばかりを繰り返すのだな、三成は。だが面白い!」

「とりあえず全員三回くらいずつ死んでくれるとありがた
「あのう…」

いつものサークル活動いつもの騒音。だがそして依頼は突然訪れる。いつもはバカみたいな理由で騒ぎ立てるこいつらの騒音とテレビから流れるあたしの大好きな片倉教授の料理教室(録画)の音しか聞こえない321号室に控えめにギィ、とドアを押す音と同時に男性らしき声が聞こえてきた。全員が手を止めドアの方に目をやると、挙動不審に辺りを見回す男子学生が立っていた。

「…探偵サークルoblivionへようこ、そ?」

石田をぶんなぐろうとしていた手を慌てて引っ込めソファの上から体を退かし、料理教室の再生をやめて三人一緒にソファに座り直し反対側に座るよう男子学生を促すと彼はゆっくり腰を下ろしたかと思うと、突然泣き出した

もう一度言う、依頼はいつも突然訪れる