・
そうして、三人で来たスーパーマーケット。客はほとんどおらず、これなら千秋が速水と歩いていることは言及されなさそうだ。
それにひと安心する千秋だが、目の前の光景には納得いかない。
「夕飯どうしよっかな」
「ひつまぶし食いたい」
「あ、いいね」
カゴや荷物を速水が自然に持ち、手ぶらで陽が食材を選び、カゴに入れていく。仲良く夕飯の相談をするそんな姿は、まるで本当の夫婦のようだ。
「あ、温泉の素買いたい」
「もうなくなりそうだったもんな。あと、ウェットティッシュ切れそうだったよな」
「あ、そうだね」
速水の部屋の消耗品を買おうとする二人。
千秋はもはや、何故陽がそこまで速水の部屋に詳しいかとか、そんなことを尋ねる気力などわいてこない。分かったのは、この二人の間に他人は簡単に入り込めないということだ。
買い物を終えて、買ったものをエコバッグに入れれば、速水が当たり前のように一番重いバッグを持つ。千秋には、そういった細々とした速水の気遣いがすごいと思えた。その場に女子がいればまた別かもしれないが、速水は男しかいないこの空間では、見事に陽にしかこんな気遣いを見せない。そのハッキリと他と陽とを分ける態度は、いっそ清々しいものだ。
「お前ら、本当に仲が良いなあ」
一緒に買い物をして、すっかり毒気が抜かれた千秋が呟く。二人は顔を見合わせて笑った。
「仲良くないよ。先輩俺様だし」
「ちゃき我が儘だし」
「仕方ないからオレが先輩に合わせてあげてるの」
「ちゃきみてえなガキの世話は大変だよ本当」
お互いに憎まれ口を叩きながら、その表情は楽しそうだ。これを見て、仲良くないとどうして言えるだろうか。互いが大切で堪らないと、彼らは全身で物語っているのに。
「……陽、バ会長の部屋に泊まる時は連絡しろよ!」
結局、千秋にはそんな悔し紛れの言葉をおくることしかできなかった。
戻る